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2019年10月 7日 (月)

明石日常生活語辞典・追記(29)

しおとろしい


 恐ろしいということを、明石の言葉では「おとろしい」と言うことが多いのですが、似たような言葉で「しおとろしい」というのがあります。この言葉も川崎洋さんにお話をしたのですが、それが次のような文章になりました。


 主婦が魚屋でサンマを買い、次に八百屋に寄って大根を買おうとしたら、一本一五〇円の値がついているのを見て、「一本一五〇円もするの、しおとろしいなァ」と--。
 大根一本、どんなに高くても、せいぜい一二〇円くらいと踏んでいたのに、一五〇円とは空恐ろしい、という気持ちです。「しおとろしい」には「恐ろしい」という語感が含まれています。
 兵庫県の明石で耳にすることばです。
 しかし、その主婦としては、今夜はサンマの塩焼きと決めて、サンマを既に買ったことでもあるし、一五〇円の高値でも、大根おろしはジャガイモでは作れないし、仕方なくその大根を買わざるをえません。
 この場合、「大根が一本一五〇円もするの、高いわね」といったら、八百屋が高く売っている、というひびきがあるので、右のようにいわれたら店先に立っている八百屋のおやじさんにも、そのうらみがましいひびきはまっすぐ当たります。
 しかし、「一本一五〇円もするの、しおとろしいなァ」という場合は、八百屋のおやじさんに向かってよりも、むしろ大根に向かって、「お前が一本一五〇円とは空恐ろしい」というニュアンスなのです。
 (川崎洋、「母の国・父の国のことば わたしの方言ノート」、日本放送出版協会、1976年10月20日発行、112ページ~113ページ)

 今年2019年は、大根ではなくサンマが「しおとろしい」値段になりました。「しおとろしい」は食べ物だけでなく、「しょーひぜー(消費税)・が・ あ(上)がっ・て・ おーさか(大阪)・まで・の・ でんしゃちん(電車賃)・が・ せんえん(千円)・を・ こ(超)え・て・ しおとろしー・ よ(世)のなか・に・ なっ・た・なー。」というようにも使います。
 「明石日常生活語辞典」では、「しおとろしい」を次のように説明しています。

 《形容詞・イイ型》 びっくりするほど値が張っていて、驚く。お金を出すのが恐いような気持ちである。「あめ(雨)・が・ つづ(続)い・て・ やさい(野菜)・が・ しおとろしー・ ねだん(値段)・に・ なっ・とる。」◆金額が高いという意味よりも、予期していた価格や常識的な価格から並はずれていることに驚く場合などに使う。けれども、買わないわけにはいかず、愚痴を言いながら、しぶしぶ買うようなときの気持ちである。

 私個人の気持ちの中には「しおとろしい」という言葉は生きています。けれども、多くの人が口にする言葉ではなくなったように思いますから、胸の中の言葉に押しとどめて、「しおとろしい」と口にすることは少なくなりました。

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