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2020年2月19日 (水)

兵庫県の方言(5)

語彙について


 兵庫県の方言の特徴の3つ目。語彙のことをお話しします。
 語彙というのは、単語の集まりです。単語の全体のことを「語彙」と言いますが、ここでは、いくつかの単語を例にしてお話しします。
 私が姫路の高等学校に勤めていたとき、生徒から「先生、いつ、はろてくれるん?」と尋ねられて、びっくりしたことがあります。
 「はろてくれる?」。えっ、何?、この生徒からお金か何かを借りたことがあったかなぁ、ということが、一瞬、頭をよぎりました。
 その生徒が、この間の試験の結果が心配だというようなことを言い出して、「はらう」という言葉が、答案を返却するという意味であることがわかりました。
 その後、多くの生徒の口から「試験、はよ、はろてほしいなー」などという言葉を聞きました。多くの生徒が、答案を返却するという意味で、「払う」を使っていたのです。
 「払う」というのは全国共通語です。けれども、私は、明石に住んでいますから、「払う」という言葉の、このような使い方に出会ったのは初めてでした。姫路の前に勤めたのは加古川市内の高等学校ですが、加古川の生徒もこのような意味での「払う」は使っていませんでした。
 場所がちょっと違えば、言葉の使い方が違ってくることがあるというのを実感しました。
 もっとも、言葉の使い方は、時代の流れに沿って変化していきます。今でも姫路で「答案を はらう」という言葉遣いをしているのかどうかは、知りません
 方言というのはおもしろいものです。私たちが方言だと思っていても、意外にも全国に広く通用する言葉があります。
 例えば、「べっちょない」という言葉があります。この言葉を、私たちは地元の言葉であると意識しているように思います。
 「昨日 駅の階段で こけたけど、 べっちょなかってん。」などと言うときの、「べっちょない」です。確かに、「べっちょない」という発音、発音の崩し方は、関西の言葉の特徴のように思います。
 けれども、「べっちょない」は、漢字で書けば、命に別状がない、という文字です。全国には、似たような発音で、似たように言葉があります。発音は方言としての特徴を持っていますが、ちょっと説明すれば、他の地域の方にも納得してもらえる言葉です。
 「べっちょない」という言葉と似た言葉に、「だんない」とか「だんだい」とかいう言葉があるのをご存じでしょうか。「だんない」「だんだい」も、大丈夫だ、心配は要らない、というような意味です。「ガラスを めんだんかいな。だんない だんない。心配せんとき。」などと言います。
 面白いことに、「だんない」は、「ドンマイ」という言葉に、発音がよく似ています。「ドンマイ」というのは、英語の「ドント・マインド」に由来する言葉です。スポーツなどで失敗をした仲間などを励ます言葉です。気にするな、心配しなくてよい、と言っているのです。
 「だんない」と「ドンマイ」。「だんない 心配せんとき」「ドンマイ ドンマイ 心配は要らん」発音が似ていて、ほぼ同じような意味を表すのは面白いことです。
 方言であると意識していないのに、その意味がわからないと、問い返される言葉もあります。一例を挙げます。先ほどの「めぐ」という言葉です。
 固いボールを窓ガラスなどに当てて、ガラスを壊すことがあります。「ガラスを めんで 怒られた。」と言います。「めぐ」という動詞を使います。これは他動詞です。
 「台風で ガラスが めげて 後始末をした。」という場合は、「めげる」という動詞を使っています。これは自動詞です。
 全国共通語をおさめた国語辞典を引くと、「めげる」という言葉は載っています。けれども、それは、試合に負けて、やる気が「めげる」と言うように、気持ちを表す言葉です。ものを壊すことを「めぐ」とは言うのは、方言(俚言)です。
 「めぐ」や「めげる」は、全国どこでも通用する言葉だと思っておられる方がいらっしゃるかもしれませんが、そうではないのです。
 疲れたというような意味を表す「しんどい」は、元は関西の方言(俚言)です。それが、今では全国で通用するようになりました。
 けれども、何かの仕事を頼まれたときに、「それは しんどいなー。よー せんわ。」というような、難しいとか、能力に叶わないというような意味は、まだ全国に広がっていないかもしれません。
 関西で広く使われている「なおす」という言葉。「机のヒキダシになおす」というような、しまっておく、収納する、という意味は、東京の人には理解できないようです。「その携帯ラジオ そんなとこに ほっとかんと ちゃんと なおしといて。」と言ったら、修繕するという意味に誤解されることになるでしょう。

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