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2020年4月10日 (金)

ことばと生活と新聞と(49)

「自分のこと」と「自分ごと」と「私ごと」


 明治時代に言文一致運動というものがありました。現代は言文一致の時代と言ってよいでしょう。けれども、話すときと書くときとに全く同じ言葉を使うとは限りません。国語辞典には話し言葉のうち、くだけた表現が載っていない場合があります。
 「他人ごと」を「ひとごと」と言わずに「たにんごと」と言う人が増えています。そして、「他人ごと」の対語として「自分ごと」と言う人がいます。私も聞いたことがあります。
 「自分ごと」という言葉を扱ったコラムに、こんなことが書いてありました。

 最近、「自分に関係があること」の意味で「自分ごと」という言葉を見聞きすることが増えています。 …(中略)…
 秋月高太郎・尚絅学院大学教授(言語学)は、一見似たような「私ごと」や「我がこと」があるのに、なぜ「自分ごと」が生まれたのかに着目します。「私」や「我(われ)」は古風で格式張った印象があるため自称詞として使いづらく、また「私ごとではございますが」のように「私ごと」は控えめ・消極的な文脈で使われる機会が多く、「自分ごと」のように積極的な意味で使われる場合にはなじまないのでは、とみます。
 (朝日新聞・大阪本社発行、2020年2月29日・朝刊、13版、11ページ、「ことばサプリ」、米田千佐子)

 上に書かれていることのうち、「『私』」や『我』は古風で格式張った印象がある」ということには同意できません。「私(わたくし、わたし)」は日常語ですし、「我々」や「我が国」という言い方も聞き慣れています。「わがこと」という言い方も廃れてしまっているわけではありません。
 「私ごと」は消極的な文脈で、「自分ごと」は積極的な意味で使われていると書かれていますが、消極的・積極的という意味がよくわかりません。「私ごと」は話し相手とは一応とぎれた内容(あなたとは関係のない事柄)であって、「自分ごと」は話し相手とつながっている関係の中で、自分に関わることを述べているように思います。
 冒頭に書いたことに戻りますが、「自分ごと」を話し言葉として使っても、文章で書くときには「自分のこと」と書く人が多いのではないでしょうか。「私ごと」とは冠婚葬祭や病気などに関わるときに使われることが多いと思われますから、使う場は限られているように思います。
 このコラムの見出しは「自己を強く意識 前向きに主張」となっています。「自分ごと」はそのような意識で使われることはあるでしょうが、もっと安易に「他人ごと」の対語として軽く使っている場合が多いのではないかと思います。自己を強く意識するのなら「自分のこと」というように、「の」を加える方が強調されると思います。

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