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2020年4月29日 (水)

ことばと生活と新聞と(68)

間違えた人は、習慣化して改める

 

 

 エレベーターなどの中にある「開」「閉」のボタンについて書かれた文章を読みました。直角二等辺三角形を2個を使って、真ん中に縦棒が描かれて、それを挟むように三角形が外向きに描かれたものと、内向きに描かれたものとを使って、それによって「開」「閉」を表すようになっています。全国どこにでもあって、知らない人はいないと思います。
 文章にはこんなことが書かれています。

 

この図形、どっちが「開」か「閉」か、私も時々分からなくなります。同じようなお客がほかにも多いでしょう。
 それぞれ、三角形の角の向きがドアの動く方向だと思われます。 …(中略)…
 この図形、改善の余地がないでしょうか。今回の写真のように、文字で説明してある例をよく見かけます。これでは本末転倒です。
 たとえば、両手を開いた形で「開」、両手を合わせた形で「閉」なんてどうでしょう。デザイナーの皆さま、いかが思われますか。
 (朝日新聞・大阪本社発行、2020年4月25日・朝刊、be3ページ、「街のB級言葉図鑑」、飯間浩明)

 

 この文章は、ずいぶん個人的な意見を述べているように感じられます。
 図形でものごとを表すのは約束事です。地図の符号でも、学校のことを「文」という文字を使って表したり、郵便局を「テ」の文字を変形して表すことに文句を言えばきりがありません。「学」の文字を使え、「ユ」の文字にしろ、というような意見があっても不思議ではありません。
 しかも「開」「閉」ボタンは、こんな図形に決められていたわけではなく、工夫を重ねて行き着いた図形であると思います。それとは違った形があっても不思議ではありませんが、「両手を開いた形」「両手を合わせた形」と言われてもイメージがわきません。両手の形も様々でしょう。直角二等辺三角形と縦棒線を使った方がすっきりしています。「開」「閉」を逆に考えてしまう人は、そうでないように理解(訓練)すればよいのです。
 このようなことに異論を唱えようとすれば、いくらでも出てくるでしょう。漢字の「右」「左」を逆に理解しようとした子どもはいるでしょう。漢字の「上」「下」だって同様でしょう。「上」の文字は、横線の位置が下段にあるから「した」であり、「下」の文字は、横線の位置が上段にあるから「うえ」であると理解することだってあるはずです。それらの文字を使いながら、習慣として正しい使い方を身に付けていくのです。
 「開」「閉」の図形に「ひらく」「しめる(とじる)」という文字が添えられていることを「本末転倒」であると批判していますが、そうではないと思います。ごく僅かの人が間違えることがあるから、親切に文字を添えているのです。そのように文字を添えることはいくらでも例があります。トイレの便器にあるいろいろな図形は、図形に工夫がされていますが、文字が添えられています。使い慣れたら図形だけで用が足せますが、初めての人は、文字を見て操作すればよいのです。
 「開」「閉」の図形は、もはやポピュラーなものになっています。この文章は問題提起にはなっていないと思います。賛同する人はわずかでしょう。
 「街のB級言葉図鑑」は文字を写真に撮って意見を述べるコラムのはずです。今回は、文字のことではなく、図形を主役にしてしまっています。これこそ「本末転倒」です。

 

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