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2020年4月13日 (月)

ことばと生活と新聞と(52)

「発出」という言葉


 かつて、「暴風雨警報が発令された」という表現をしばしば耳にしていたと思います。気象庁(気象台)が「発令」という言い方をしていたのか、新聞・放送がそのような言葉遣いをしていたのか、それはわかりません。
 「発令」という言葉は、暴風雨警報のようなものには違和感はありませんでしたが、強風注意報のような、軽い程度のものに使うのは大げさな表現のように思いました。「発令」ではなく、もっと軽い言葉はないのかと思っていました。
 今では「暴風雨警報」も「強風注意報」も「光化学スモッグ情報」も、「出た(出した)」という表現が多くなっているように思います。けれども逆に、重大なものも軽微なものも一括して「出た(出した)」と表現するのは安易であるように思います。
 さて今回の新型コロナウイルス汚染拡大については、首相は会見で「緊急事態宣言を発出する」という言葉遣いを何度もしていました。私にとって「発出する」は耳慣れない言葉ですが、「発令する」の大げさな感じはなくて、好ましく聞こえました。これは政治・法律に関わる言葉なのかどうか知りませんが、「発令する」よりはよいと思います。「出す」よりは、ちょっと形の整った言葉のように思われます。
 「令」の文字にはいろいろな意味がありますが、まず思い浮かべるのは「命令」です。私には、「令和」という元号にはいまだに馴染めない気持ちがあります。気象に関わるものには「発令」はふさわしくなく、せいぜい「避難命令(避難勧告)が発令された」あたりが納得できる表現の範囲です。
 新聞は、引用文としては「発出」を使う可能性はあるでしょうが、一般には「出す」や「発令する」を使っています。

 安倍晋三首相は7日夕、新型コロナウイルス対応の特別措置法に基づく緊急事態宣言を東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県に出し、すみやかに公示して発効させる。
 (朝日新聞・大阪本社発行、2020年4月7日・夕刊、3版、1ページ)

 安倍首相は7日夕、新型コロナウイルスの感染者急増をうけて、東京都など7都府県を対象に緊急事態宣言を発令する。
 (読売新聞・大阪本社発行、2020年4月7日・夕刊、3版、1ページ)

 当然のことですが、朝日新聞は同じページの記事の中では、「宣言を出すための手続きに着手した。」「政府は、宣言を出すにあたり、」という表現をしています。
 読売新聞は同じページの記事の中では、「2012年の特措法成立後、発の発令となる。」「同日夕に政府対策本部で宣言を発令。」「宣言を発令するよう提言していた。」「首相が緊急事態宣言を発令する際に諮問を受け、」という表現をしています。

 さて、そこで「発出」という言葉についてですが、小型の国語辞典には載っていません。今後、日常生活でも使われるようになるのであれば、国語辞典には載せなくてはなりません。
 『広辞苑・第4版』には載っていますが、簡単すぎるようです。

 ①あらわれること。あらわすこと。おこすこと。
 ②出発に同じ。

 ①は、広すぎる説明のように思われます。何についても、あらわれたり、あらわしたり、おこしたりする場合に使える言葉であるとは考えられません。「一匹の猫が発出した(あらわれた)」、「みんなの前に姿を発出した(あらわした)」、「凶悪な事件を発出した(おこした)」というような表現が、それそれ可能であるのか、そうでないのかということが分かりません。そういうことも含めて、国語辞典の説明が必要になってくるでしょう。
②については、「午後7時に東京駅から新幹線で発出した」というような表現が可能なのでしょう。
 今回の「緊急事態宣言を発出する」のような例をもとにするなら、「発出」の意味として、法令・宣言・考えなどを広く告げること、というような説明が成り立つのかもしれません。

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