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2020年4月19日 (日)

ことばと生活と新聞と(58)

「先取り」とは、どうすることか


 「先取り」という言葉があります。相手や周りの人より先に、ものを取ったり、ことを行ったりすることです。何かが広く行われる(または、そうならない)前にそれを行うことでもあります。「時代を先取りした企画」などという使い方をします。
 教育に、先取りという行為はあるのでしょうか。こんな表現がありました。

 小学校3・4年生で外国語活動が始まり、5・6年生からは「教科」になりました。英語の能力を伸ばすコツは。「先取り」よりも「動機付け」にありそうです。
 (朝日新聞・大阪本社発行、2020年4月12日・朝刊、「EduA」1ページ)

 この場合の「先取り」の意味が理解できません。リード文に「先取り」は使われていますが、このページ全体の中には、他に「先取り」という言葉は出てきません。何かを決め付ける言葉として使われているようです。次のページには、こんな表現がありました。

 小学校の英語は、単に中学校英語の先取りではありません。幼稚園児から大学院生までの各課程で指導経験を持つ昭和女子大学付属小学校の小泉清裕校長は、小学校の英語力を伸ばすコツは「感性と知性に訴えること」と「聞く」ことだといいます。
 (朝日新聞・大阪本社発行、2020年4月12日・朝刊、「EduA」2ページ)

 塾などで勝手に小学校1・2年生から教えはじめたら「先取り」でしょうが、小学校の3・4年生の教育課程の中にきちんと位置づけられているのですから、「先取り」などという言葉には該当しません。
 「先取り」と言えば、この「EduA」という紙面が、小学生を中学受験という場面に誘い込もうとする意図で編集されています。受験地獄の先取りです。そういう世界へ親を引っ張り込もうという意図が強く働いている紙面構成です。

 0歳~未就学児 遊びを通じて、自然と学べる ワールドワイズキッズ(ベネッセ)
 小学校低学年 多読で「読む」「聞く」を磨く オックスフォード・リーディング・ツリー(オックスフォード大学出版局)
 小学校中学年 タブレットで4技能を伸ばす 小学生タブレットコース(Z会)
 (朝日新聞・大阪本社発行、2020年4月12日・朝刊、「EduA」3ページ、高田英、記事の小見出し)

 これは広告ではありません。本文記事が広告と化しています。そして、これこそ異常な「先取り」です。外国語活動が始まる小学校中学年に、4技能を伸ばすなどという言葉でけしかけています。

 中学受験に失敗、傷ついた息子 親としてどう向き合えばよいのか
 (朝日新聞・大阪本社発行、2020年4月12日・朝刊、「EduA」3ページ、「お悩み相談室」、清水章広、見出し)

 全国の大多数の子どもたちは公立中学校へ進みます。私立中学校の受験に失敗するのはごくごく少人数です。こんな記事を大げさに掲げるのはおかしいのです。回答者は教育アドバイザーという肩書きになっています。
 そして、記事は次々と展開します。(記事内容は省略。)

 (朝日新聞・大阪本社発行、2020年4月12日・朝刊、「EduA」4ページ、「親子で挑戦 中学入試数学」、安浪京子)

 (朝日新聞・大阪本社発行、2020年4月12日・朝刊、「EduA」5ページ、「国語のチカラ」、南雲ゆりか)

 数学の担当者の肩書きは算数研究家であり、国語担当者は南雲国語教室(東京都)主宰となっています。
 6ページは大学に関する話題になっていますが、7ページは再び、主として小学生向けの200字オピニオンの書き方の指導と、「家族のとなりに新聞を」と題するNIEコーディネーターの文章です。8ページは全面広告です。
 月に2回、折り込まれる「EduA」という紙面は、国立・私立中学受験という意図が強く出ている企画です。教育を正面から考える企画とはほど遠く、何とか中学合格を果たそうとする記事であふれています。首都圏を中心にした私立中学校を応援しようというの意図が濃厚にあらわれていて、大多数の読者とは無縁の企画です。
1ページの片隅に、次のような挨拶が載っています。

 ■編集長が交代しました
 4月1日付で市川裕一が就任しました。さらにパワーアップして2020教育改革や子どもの学び、成長に役立つ情報をお届けします。引き続きご愛読ください。
 (朝日新聞・大阪本社発行、2020年4月12日・朝刊、「EduA」1ページ)

 「さらにパワーアップ」とは、ますます中学受験の記事に拍車がかかるということでしょうか。「2020教育改革や子どもの学び、成長に役立つ情報」と書いてありますが、すべての子どもに役立つ企画を願わずにはおれません。「EduA」という別刷りが始まってほぼ1年、私立中学応援の記事にあふれた紙面を見て、配られるたびに不愉快な思いになっている人も多いことでしょう。

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