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2020年4月27日 (月)

ことばと生活と新聞と(66)

読み方が2通りあっても構わない


 日本は「にっぽん」とも読みますし「にほん」とも読みます。工場は「こうじょう」の場合もありますし、「こうば」の場合もあります。どちらかに統一しようと頑固になる必要はありません。
 こんな文章を読みました。

 バスの前面に〈後のり〉と表示されていることがあります。「後方から乗ってください」ということですが、どう読めばいいのでしょう。あとのり? うしろのり? …(中略)…
 他の辞書では、「あとのり」で項目を立てています。「後ろ」でなく「後」と書いてあれば「あと」と読みたくなります。でも、後ろ側のことを「あと」とは言いにくい。
 担当編集者を通じて各バス会社に聞いてみると、どこも「うしろのり」「うしろおり」と言うそうです。〈後のり〉は、字数を節約するための表記なのでしょう。
 (朝日新聞・大阪本社発行、2020年3月21日・朝刊、be3ページ、「街のB級言葉図鑑」、飯間浩明)

 私も、「後乗り」と書かれたバスに乗ったことがあります。読み方については「あとのり」なのか「うしろのり」なのか、どちらだろうかと思案しました。けれども、どちらであっても、意味を間違ってとらえることはありません。国語辞典編集者が、読み方を決める(限定する)必要はありません。バス会社が「うしろのり」と決めていても、人々が「あとのり」と言うならば、それはそれで、いっこうに構わないことです。
 読み方の揺れよりも、「後ろ側のことを『あと』とは言いにくい」という結論付けこそ疑問を感じます。「俺のあとに続け」「あとから、ついてこい」と言うことがあります。後ろ側という意味です。俺より前には出るな、後ろに続けという意味です。後ろ側のことを「あと」とも言うのです。
 逃げる者を後ろ側から追いかける「後追い」、荷車などを後ろ側から押して助ける「後押し」、前を向いたまま後ろ側に下がる「後ずさり」など、後ろ側のことを「あと」と言う例はあります。
 国語辞典に載っている項目は「あとのり」だというのも、おかしな理屈です。「あとのり」「うしろのり」の両方を項目にすべきです。国語辞典には、人々の言語生活に基づかない、編集者の独断ということもあるのです。
 日常生活では、「うしろ」を必ず「後ろ」と書くとは限りません。ワープロソフトでは「うしろ」と打つと「後」も「後ろ」もあらわれます。
 バスの表示は、人々にわかりやすいようにという意図で書かれているのです。「後ろのり」と表示すると戸惑いを感じる人もいることでしょう。「うしろ乗り」では「うしろ」を瞬間的にひとまとまりで捉えられるでしょうか。やっぱり「後のり」か「後乗り」がわかりやすい表示であるでしょう。

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