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2020年4月 3日 (金)

ことばと生活と新聞と(42)

東京人にとっては、東京が万事だ


 多くの情報は、東京から地方へ送られます。多くの情報の作り手は、東京に住む人たちです。地方に住む人たちを見下げているとは思いませんが、情報の送り手たちは自分が東京に住んでいることを忘れています。別の言い方をすれば、東京の情報が全国の人たちに通用すると思って発信を続けているのではないかと思うのです。
 例えばこんな文章があります。

 今年の桜は受難を強いられている。飲んで騒いでの花見がなくなり、ゆるりと歩いて眺めてくれるかと思いきや、ところによっては、立ち入りすら禁止されてしまった。きのうはきのうで、関東など季節外れの雪に見舞われた
 (朝日新聞・大阪本社発行、2020年3月30日・朝刊、14版、1ページ、「天声人語」)

 何ということもない文章かもしれません。けれども、この文章を読んだ段階では、関西はまだ桜は咲き始めたばかりです。満開は何日か後でしょう。東北地方では更に先のことになるでしょう。「飲んで騒いでの花見がなくなり」と言っていますが、それは東京近辺でのことです。まだ飲んで騒ぐ時期にはなっていません。「ところによっては、立ち入りすら禁止されてしまった」とは上野公園のことを思い浮かべて文章を綴っているのでしょう。東京人にとっては、東京のありさまが万事なのです。
 新聞だけでなくテレビも同じです。NHK総合テレビの朝、6時台から7時台のニュースに「1分天気」というコーナーがあります。毎朝、東京(渋谷)の様子だけが映され、その日に着るものに気を使いながら、今日は天気がよいとか、傘を忘れないよう持っていくようにとか言っています。どうしてあんなものを全国に流す必要があるのでしょうか。
 情報発信者が東京人ばかりだから、首都から流すものが全国に役立つと思っているのでしょう。役立つことも多いでしょうが、地方に住む人たちの心にかなっていないものも多いということには思い至らないのでしょう。
 新聞の記事を書く人も、放送の番組を作る人も、東京の出身者ばかりではないでしょう。ところが東京に着任した途端、日本の中心地のメンバーになったという自負心(あるいは、思い上がり)から、そのような情報発信者になってしまうのかもしれません。
 本当は地方在住の記者がもっと記事を書くべきです。地方版の記事だけを書くのが地方支局の記者の務めであってはなりません。NHKは地方制作の番組を日常的に伝国に流すべきです。東京が全国を牛耳ることをやめるべきです。東京の一極集中に批判的な意見を述べながらも、新聞・放送は脱却する姿勢の片鱗も見せていません。
 それをしないから、東京勤務になった者が、東京の感覚を身に付けて、東京発信の情報を全国に流し続けるのです。
 読者や視聴者から特段の抗議がないからといって安心してはいけません。新聞もテレビも東京から流れてくるものだから仕方がない、と諦めている人が、全国にはたくさんいるということを忘れてはいけないと思います。

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