« ことばと生活と新聞と(120) | トップページ | ことばと生活と新聞と(122) »

2020年6月21日 (日)

ことばと生活と新聞と(121)

下品な言葉「ぶら下がり取材」


 ある職業の方々だけに通用する言葉というものがあります。業界の中だけで使うのなら便利な言葉でしょうが、外の世界の人には通用しないことがあります。一般に通用しなくても、業界内で便利な言葉ならどんどん使ってよいだろうと思います。
 そのような言葉を、外の世界の人向けに使うと、意味がわからなかったり、誤解を生じたりすることがあります。それから、もうひとつ考えておかなければならないのは、業界用語は能率よく伝えようとする目的の言葉が多いので、部外の人には下品に感じられるような言葉があります。
 まったく下品だなぁと思われる言葉が報道の世界にあるようです。こんな記事がありました。

 安倍晋三首相は21日、大阪、京都、兵庫3府県の緊急事態宣言の解除を決めたが、記者会見は開かなかった。7都府県に宣言を出した4月7日以降、全国拡大や39県の解除などの節目で4回会見し、質疑を合わせて1時間程度語ったが、この日は全体で約7分間の記者団の「ぶら下がり取材」の中で、約4分間話しただけだった。
 (朝日新聞・大阪本社発行、2020年5月22日・朝刊、14版、4ページ、岡村夏樹・山下龍一)

 記者が「ぶら下がり取材」という言葉を使い、この記事の見出しにも同様の言葉が使われました。次のように書かれていました。

 3府県解除 首相、会見せず / 緊急事態宣言 「ぶら下がり」のみ

 会場を設定しての記者会見ではなく、適当な場所で記者たちが群がってインタビューをしている場面をテレビ・ニュースなどで見ることがありますから、それを「ぶら下がり取材」と言っているのだろうということは理解できます。
 それを「ぶら下がり取材」と称するのは、報道関係者の間で使われている言葉だろうということも理解できます。けれども、その言葉を記事で使うのはどうかと思います。
 「ぶら下がる」という言葉は、上端で支えられて垂れ下がるという意味です。記者が押しかけていって、誰か一人に「ぶら下がる」と表現するのは、いかにも下品な言葉です。迷惑を考えないで、人につきまとっている印象です。本人にはぶら下げようという意思がないのに、記者が勝手にぶら下がってくるのです。
 正式の記者会見においても、自分の言葉で語ることがない首相ですから、「ぶら下がる」ことをして真意を聞いてみたいということは理解できますが、それを「ぶら下がり」と表現するのは下品です。河井夫妻が逮捕される前に、行きずりの場で記者が群がってインタビューをしようと試みていましたが、あのような場面のことも「ぶら下がり取材」と言うのでしょうか。
 「ぶら下がり取材」という言葉を使うのは、政治家が対象でしょうか。ノーベル賞の受賞者や、スポーツの選手や、犯罪で犯人と思われるような人や、一般の市民などにも、足を止めさせて取材をすれば「ぶら下がり取材」という言葉に該当するのでしょうか。狭い範囲の人たちの間で使われている言葉のようですから、その言葉の意味・用法がよくわかりません。記事に堂々と使うような言葉ではないでしょう。
 要するに「ぶら下がり」などという言葉を使う記者は、自分が、人にとっては迷惑な行為をしているということを、きちんと認めているということになるのです。人の迷惑などを考えていたら取材などはできないのかもしれませんが、「ぶら下がり取材」などという言葉を使うことは、取材相手の迷惑のことなどは眼中にないということを表明しているあらわれかもしれないと感じるのです。

|

« ことばと生活と新聞と(120) | トップページ | ことばと生活と新聞と(122) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« ことばと生活と新聞と(120) | トップページ | ことばと生活と新聞と(122) »