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2020年6月 6日 (土)

ことばと生活と新聞と(106)

価値が下がり続ける言葉


 言葉は使い続けられることによって、その言葉の持つ意味が変化することがあります。昔はそういうことは少なかったのかもしれませんが、現在ではマスコミで酷使されて価値が下がっている言葉もあります。
 ちょっとだけ熱心に取材しただけなのに「密着取材」、他のマスコミと比べて少しだけ視点が違っていただけなのに「独占取材」、わすかに詳しく述べただけなのに「とことん解説」、別に急いでほしくもない話題なのに「緊急報告」、何でもない内容を言葉だけ飾って「超スクープ」…、まだまだいくらでもあります。
 新聞のテレビ欄は普通の記事のはずですが、テレビ局の受け売りの言葉をそのまま、新聞は何の反省もなしに掲載しています。馬鹿げた言葉であっても新聞が掲載してくれるということがわかっていますから、テレビ局は言いたい放題です。
 料理番組とかグルメ番組とかの中でも、使う言葉は言いたい放題です。「秘伝のたれ」「製法特許の作り方」など、ウソ偽りにあふれた言葉を使い続けています。料理を作る人は「名人」「達人」「熟練者」です。そんな特別な人間が毎日、次々と登場するはずはありませんのに…。
 こんな新聞記事を見ました。

 外出自粛が続く中、家で楽しく過ごしてもらおうと、ホテルニューオータニ大阪(大阪市)が「門外不出のホテルレシピ」をサイトで公開中だ。31日まで。
 (朝日新聞・大阪本社発行、2020年5月5日・朝刊、14版、26ページ、「青鉛筆」)

 あきれてしまいます。「門外不出」という言葉の意味すら理解しないで、宣伝文句のように使っているのです。「門外不出」のものや「秘伝」のものは、公開しないからこそ「門外不出」であり「秘伝」なのです。
 普通に考えれば、門外不出として、あるいは、秘伝として申し伝えて行くものは、黙って静かに次代に伝えていくのです。「これは門外不出のものだ」とか「これは秘伝の作り方だ」などと口にするはずはありません。
 こんな言葉遣いを、社会の公器と自負し、ジャーナリズムと自賛するテレビや新聞が使い続けるから、ホテルも宣伝文句に使おうとするのです。日本語のわからない人間が放送や新聞の現場に立ってもらったら困ります。報道の世界は、大げさな宣伝文句だけをしゃべることができるが、冷静にものごとを伝える力に欠ける人間が増え続けているように感じているのです。自己反省が必要です。

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