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2020年6月23日 (火)

ことばと生活と新聞と(123)

読み方の改変も、地名の改変と同じである


 宮崎県の西都原(さいとばる)古墳群の名称をはじめとして、九州では「原」を「はる」と読む地名がたくさんあります。同じ宮崎県に航空自衛隊の新田原基地がありますが、「にゅうたばる」と読みます。「新」を「ニュー」と読むのは英語読みのように思われるかもしれませんが、「新田」を「にった」と読むのはごく普通です。新田原も「にったばる」と読むのは普通の読み方であり、「にったばる」が「にゅうたばる」となるのも日本語の発音として自然な変化であると思います。
 常用漢字の音訓表などのなかった時代に、文字の読み方がいくつかあっても不思議ではありませんし、風土記が編纂されるときよりも古くからある地名なら、後に文字を当てはめたに過ぎないのです。地名は文字も大事ですが、読み方はもっと大事です。もちろん、その読み方が時代を経て変遷してきていることは言うまでもありません。
 私は江戸時代の5街道をすべて端から端まで自分の足で歩きましたが、日光街道を歩いて徳次郎宿を通ったのは2015年5月のことでした。宿場の名前は「とくじら」ですが、交差点名の読み方には「Tokujiro」と書いてありました。江戸の昔から言い習わしてきた「とくじら」を現代風の「とくじろう」に改めたのは行政であろうと思い、残念な気持ちになりました。
 その徳次郎のことが、新聞に取り上げられていました。

 宇都宮市北西部に「徳次郎町」という地名がある。行政上の読み方は「とくじろう」だが、地元では昔から「とくじら」が常識だった。地元自治会は4月、「本来の読み方に戻してほしい」と、市に要望書を出した。あまり例のない読み方の変更はかなうのか。
 「『とくじら』じゃなきゃダメでしょ」。地元で生まれ育った会社社長斎藤光重さん(62)はそう言い切る。通った保育園、地域に残る戦国時代の城跡、高齢者施設、三つのバス停、商店の屋号--。至る所で昔ながらの呼び方が使われてきた。 …(中略)…
 昨秋、読み方の変更が可能なことがわかった。地元自治会が4月に要望書を提出。市は9年ぶりに市住居表示等審議会を設置することになった。
 (朝日新聞・大阪本社発行、2020年6月15日・夕刊、3版、7ページ、「地域発 栃木県から」、中村尚徳)

 行政が一方的に変更しておいて、元に戻すのは煩雑な手続きが必要だというようなことでは、筋が通りません。
 私の地元、明石市に「和坂」という地名があります。もともとは「かにがさか」と読み、地名の由来には古い言い伝えが残されています。
 今は、「かにがさか」と読む「和坂」の他に、「わさか」と読む「和坂」「和坂稲荷町」があります。同じ「和坂」が2つあるのは紛らわしいようですが、「かにがさか」と読む方はJR西明石駅と電車区の用地内のようで区分ははっきりしています。行政のやり方は、「かにがさか」という読み方を見えないようにして、一般の住宅のある地域の「わさか」という呼び名を広めようとしているのです。姑息なやり方のように思われます。
 けれども、読み方の場合はまだ軽症です。古くからある地名を消して、新しい名前に変えてしまうことが各地で行われました。現在も行われ続けています。これは文化の抹殺に等しい行為だと思います。

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