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2020年6月28日 (日)

ことばと生活と新聞と(128)

「うまい」料理と「おいしい」料理


 私は、テレビの料理番組などで出演者が「うまい、うまい」と叫びながら食いついている姿を見ると、男女に関わらず、「おいしい」と言いなさいと言いたくなります。けれども、文章に書かれたものを読む場合は「うまい」であっても抵抗感は少ないのです。テレビの場合は無作法なしぐさが目についてしまいますが、書き言葉の場合は食べている姿は想像するしかなく、美しい動作を思い浮かべるからかもしれません。
 井上ひさしさんの連載広告文を集めた、「ことばの泉」という題名の文章がありますが、その中にこんなことが書かれていました。

 たとえば「うまい」と「おいしい」では、どこがどう違うのか。これまでの辞典は、〈「おいしい」は「うまい」より丁寧で、多く女性が用いる。〉と書くだけだったが、『大辞泉』(小学館)は一歩その先を行く。右のほかに、〈「うまい」には、上手だ、手際がよいの意があるが、「おいしい」はこの意では用いられない。また「おいしい話」には、利益になるという意がつよい。〉と、その使い分けをはっきりと示す。引いてよかったと表紙をなでたくなるのは、こういうときだ。
 (井上ひさし、『井上ひさし発掘エッセイコレクション 社会とことば』、岩波書店、2020年4月10日発行、134ページ)

 「うまい料理」には、美味しい料理という意味の他に、上手に作られた料理、手際よく準備された料理という意味が込められて表現されることがある、と考えられるのです。
 「おいしい料理」には、それを食べてもらって利益を得ることになる料理という意味が込められて表現されることがある、と考えられるのです。
 そうなると、「うまい料理」と「おいしい料理」は、場面によって使い分ける必要があるということにもなります。
 新型コロナウイルス感染症の拡大に伴って、店内で飲食させることをしていた店が、持ち帰り食の販売に乗り出しています。手際よく準備された「うまい」ものを販売して、利益を得る「おいしい」商品に舵を切っているのです。

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