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2020年6月 7日 (日)

ことばと生活と新聞と(107)

「秘伝」と「角打ち」  -惰性的な新聞用語-

 新型コロナウイルスの感染不安が、外食の風景に異変を起こしているというニュース記事に、こんな表現がありました。

 大阪・ミナミにある老舗串カツ店「だるま道頓堀店」。5月中旬、1カ月ぶりに営業再開した店のカウンターから、秘伝のソースが入った銀色の缶容器が消えた。代わりにあるのはソース入りボトル。間隔を空けて座った客が、ボトルのソースを串カツに直接かけたり、皿に注いだりしていた。 …(中略)…
 酒屋で飲酒できる「角打ち」も、狭いスペースに客が密集することが多い業態だ。酒屋「いまでや」は、3月末から千葉県や東京都内3店舗での角打ちを休止していたが、5月下旬、JR千葉駅構内の店舗で再開。
 【添えられた写真の説明文】 串カツ店「だるま」の道頓堀店では、卓上にボトルに入った秘伝ソースが置かれている=大阪市中央区
 (朝日新聞・大阪本社発行、2020年6月3日・夕刊、3版、6ページ、添田樹紀・林幹益)

 大阪本社で書かれた記事と、東京本社で書かれた記事とを合わせたようになっていて、2人の記者名が書かれています。
 「老舗」というのはどれぐらいの歴史を持つものに与えられる称号かということは、ここでは話題から外します。
 「秘伝のソース」という言葉が、本文と写真説明で使われています。どのようなものを「秘伝の」と言うのでしょうか。すべての店のソースの味は異なりますから、すべての店が「秘伝の」ということなのでしょうか。美味しくても「秘伝」、美味しくなくても「秘伝」です。つまり、ソースはすべての店で「秘伝」です。ということは、「秘伝」という最上級のような褒め言葉は、全く意味を持たないことになります。ほんとうに「秘伝」という言葉を使って称えるものならば、その味か製造法の一端でも紹介しなければなりません。
 たぶん、このような表現をしたのは、記者が、食べ物には「秘伝の」という修飾語を付ければ美味しそうに見えるという感覚で、ためらいもなく、惰性的にこの言葉を使ったのだろうと思います。「老舗の店」「伝統の味」「昔から変わらぬ製造方法」「秘伝の料理」などというのは、具体的な説明を抜きにして、簡便な表現法として好まれるのでしょうが、読者には何も伝わってこないことが多いのです。
 話は変わって、「角打ち」という言葉を初めて聞きました。「酒屋で飲酒できる」という説明がついていますから、意味は理解できます。この記事が東京本社管内に掲載されるのであれば、それで問題はありません。けれども、関西の人たちは「立ち呑み」という言葉に慣れていて、「角打ち」はよその言葉のように聞こえます。
 「角打ち」は小型の国語辞典には載っていないように思いますが、もし載せるとしたら、堂々と全国共通語のような書き方で説明するのが、辞典編纂者たちの姿勢です。東京周辺で使っていたら全国共通語であり、関西で使っていたら関西方言であるという判断をするのです。東京方言などと書かれている説明はほとんど見たことがありません。それが辞典編纂者の思い込みです。
 言葉の、間違った中央集権思想です。東京にいる新聞記者にもそのような思い込みが伝わってしまって、このような表現が記事に現れたのではないでしょうか。

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