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2020年6月26日 (金)

ことばと生活と新聞と(126)

「枕ことば」の意味は、国語辞典で説明されているか


 「枕詞」は和歌の修辞技巧の一つとして万葉集の時代には既に多くが使われていました。枕詞は主として5音の言葉で、次に現れる言葉にかかっていく言葉です。例えば「ともしびの」は「明石」にかかる言葉です。同じようなものに「序詞」がありますが、これはもう少し長い言葉です。古語辞典には枕詞一覧表が載っていますが、序詞一覧表は載っていません。枕詞が誰でも同じような使い方をしたのに対して、序詞は歌人ひとりひとりが異なった言葉遣いを工夫して使ったからです。
 その「枕詞」(表記は「枕ことば」「まくら言葉」など)という言葉は、現代でも使われますが、上に述べたような意味とは違った使い方をされるのが普通です。
 例えば、次のような使い方です。

 「名品」とは何ぞや。重要文化財? 美術の教科書に載っていた? 「昭和チックで、権威主義的な言葉。何を『名品』とするかで時代は変わるし、人によっても違う」と兵庫県立美術館の西田桐子学芸員。「超・名品展」と銘打つ開館50周年記念展は、そんな枕ことばに対する一つのアンチテーゼのようだ。
 (朝日新聞・大阪本社発行、2020年5月19日・夕刊、3版、3ページ、「蔵出し美術展」、田中ゑれ奈)

 この文章で使われている「枕ことば」の使い方は、どう解釈すればよいのでしょうか。「開館50年展」の枕ことばとして「超・名品展」という言葉が使われているという解釈ができそうですし、「名品」という言葉が枕ことばの意味を持っているという解釈もできそうです。
 国語辞典で「枕詞」の説明を見ると、次のようになっています。この文章の冒頭で述べたような意味(和歌の修辞)を、仮に〔A〕と書くことにします。
 『明鏡国語辞典』『現代国語例解辞典・第2版』『新明解国語辞典・第4版』『岩波国語辞典・第3版』には、〔A〕の意味だけが書かれています。
 『三省堂国語辞典・第5版』には〔A〕の他に、次のような説明があります。

  ②話のはじめに添えて言う決まり文句。

 また、『広辞苑・第4版』には〔A〕の他に、次のような説明があります。

  ②転じて、前おきのことば。
③ねものがたり。

 2つの国語辞典だけに「枕詞」の説明が載っているということは、ちょっともの足りない気持ちがします。現代語の文章にも使われる言葉ですから、国語辞典は、外来語の見出しを増やすことに努力するよりも、日本語の言葉の意味の記述を充実させる必要があります。
 ところで、「枕詞」は、落語のマクラとは性格が異なります。「話のはじめ」に出てくるとか、「前おきのことば」とかの説明は、少しおかしいと思います。
 上記の新聞記事は、文章の冒頭を引用しましたが、「枕詞」は話の初めに出てくるとは限りません。しかも、「決まり文句」ではありません。「商売の都市・大阪」とか「煙の都・大阪」とか「お笑いの町・大阪」とか言うことがありますが、「大阪」という言葉の前に置かれたのを「枕詞」と言ってよいでしょう。けれども、「大阪」の前に置く言葉は、文脈に沿っていろいろ言い換えられます。決まっているのではなく、無数の表現が可能です。
 枕詞とは、後ろに出てくる言葉をわかりやすくイメージさせたり、象徴的に説明したりする言葉です。修飾語の働きをしている言葉です。国語辞典には、そのような説明が必要なのではないでしょうか。
 引用した文章では、「『超・名品展』と銘打つ開館50周年記念展」という表現をしています。「名品」=重要文化財、美術教科書の掲載作品、というような考えを「枕詞」という言葉で表現し、開館50周年記念展は、そのような「枕詞」をうち砕く「超・名作」の作品展だと言おうとしているのでしょう。

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