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2020年6月22日 (月)

ことばと生活と新聞と(122)

食べ物番組について思うこと


 川崎洋さん(1930年~2004年)はやさしい言葉で、美しい作品をお書きになる詩人でした。例えば、「美の遊び歌」という詩は、こんな面白い作品でした。

 〈美しい〉の中に / 恣意 / 気ままな基準によるということで
 〈美意識〉の中に / 四季 / その境目はあいまいになりつつあり
 〈美談〉の中に / 鼻(び) / 鼻もちならない例もあり
 〈美食家〉の中に / 職(しょく) / それを売り物にして稼いでいるむきもいて
 〈美少女〉の中に / 障子 / 純日本風な子は近頃少なくて

 /を入れたところは、実際には改行されており、その3行と次の3行との間には1行の空白が設けられていましたが、ここではスペースを少なくして引用しました。
 おわかりのことと思いますが、「美(うつく)しい」という言葉の一部に「恣意(しい)」という発音が含まれているということに興味を持った詩です。5つのまとまり(連)はいずれも、そのような発想で書かれています。
 私は「〈美食家〉の中に / 職 / それを売り物にして稼いでいるむきもいて」というところに、深く同感します。美味いものだけを食い散らかしているタレントや料理人がいます。食べ物の中にはとりたてて美味くないものもありますが、それは誰が食べたらよいと考えているのでしょうか。食べ物を大切にしない〈美食家〉には腹立たしい思いがします。
 それとともに、そんな〈美食家〉を持ち上げるように書いている文章にも苛立たしさを覚えるのです。
 例えば、こんな記事がありました。

 宅配ピザの大手チェーンが販売している全42種のピザを、ファミレスなどのメニューを食べ尽くす番組企画の常連たち「ウワサオールスターズ」が、人気ランキングの順に次々と平らげていく。具だくさんのピザが画面いっぱいに並ぶさまは、まさに「飯テロ」番組だ。
 (朝日新聞・大阪本社発行、2020年6月12日・朝刊、14版、30ページ、「試写室」、大野拓生)

 「飯テロ」という語がどういう意味の言葉であるのかは知りませんが、次々に食べて、その感想の言葉を吐き続ける番組なのでしょう。こういう番組には人気ランキングなどという企画が付き物のようです。
 「ウワサのお客さま」という番組の紹介記事の一部分を引用したのですが、時間ごとの番組欄にも、過激と思われるような言葉が並んでいます。番組欄は通信社の配信をそのまま載せているのでしょうが、「試写室」という紹介記事は、自社の記者が書いたものでしょう。この番組を選んで紹介しようと判断したのも新聞社の方でしょう。
 番組の出演者だけでなく、記者もこの番組を「売り物」にしようという意図で文章を書いているようです。
 料理の材料の細かな紹介や、それがどのような心と技を込めて料理に仕立てられたのかというようなことを抜きにして、できあがった料理に食いついて、「美味い」「よし」「グー」などという平板な言葉を吐き続けるタレントが出演し、それをグルメ番組と称することが多くなっています。味や香りや舌触りなどを細かく、美しく語る言葉が欠如してしまっている人間が、騒ぎ合っているのです。
 新型コロナウイルスの感染で、私たちのこれまでの生き方を変えるように求められています。食い散らかして、表面的なおもしろさだけを売り物にする番組などは、根本から考え直すべきだと思います。もし、この番組が真面目に料理を良さを伝えようとしている番組であるのなら、そのような紹介の仕方を考えてほしいと思います。試写で番組を見ているのは、記事を書いた記者だけなのですから。

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