« ことばと生活と新聞と(113) | トップページ | ことばと生活と新聞と(115) »

2020年6月14日 (日)

ことばと生活と新聞と(114)

「ご安心」と「ご安全」


 「皆さまの安全・安心のために、私たちは力いっぱい努力をいたします」というように、「安全」と「安心」を並べた表現が多くなっております。言いたい気持ちはわかります。けれども、「安全」と「安心」は並列できる言葉なのでしょうか。
 人々の「安全」のために努力するということはわかります。けれども「安心」する度合いはひとりひとり異なりますから、「安心」をすべての人に保障することなどは無理でしょう。「安全」は客観的な度合いであり、「安心」は心の状態なのです。
 「ご安全」という言葉について書かれたコラムがありました。

 集団内では当たり前の習慣が、外部の人から見るともの珍しい、ということがあります。業界特有の挨拶なんかもそうです。
 山口県徳山の工場に〈今日も一日「ご安全に!」〉という看板が掲げてありました。一般に「安全」には「ご」をつけないので、珍しい使い方と言えるでしょう。 …(中略)…
 安全確認が最重要の職場では、「ご安全に」は広まるべくして広まったのでしょう。「安全第一」では少し硬い。「お大事に」のような柔らかさを持たせた言い方です。
 (朝日新聞・大阪本社発行、2020年2月22日・朝刊、be3ページ、「街のB級言葉図鑑」、飯間浩明)

 「一般に『安全』には『ご』をつけないので、珍しい使い方と言える」ということについて考えてみます。「どうぞご安心ください」のような言い方は広く行われていますから、「安心」に「ご」はつけられますが、「安全」に「ご」はつけにくいということになります。このことは、「安全」と「安心」は同列に扱えない言葉だということのひとつの理由づけになります。
 ところで、上記の引用文にある「安全第一」や「お大事に」は、「ご安全に」と重なり合う言葉でしょうか。「安全第一」は職場全体を覆う方針のようなものですが、「ご安全に」は働く者同士が声をかけあう言葉のように聞こえます。「お大事に」は病気や怪我をした人をいたわるような響きがありますから、日常の職場でかけあう言葉ではないでしょう。「今日も一日、安全に気をつけて働きましょう」というような気持ちを、短く、「ご安全に」という言葉で表したのでしょう。
 そして、この「ご安全に」は仲間内の挨拶言葉から離れて、多くの人々向けに交わされる言葉になっても不思議でないように思われます。新型コロナウイルスに苦しめられている人たちがお互いにかけあう言葉として、「ご安全に」という言葉が広がってもよいようにも思われます。
 ところで、「一般に『安全』には『ご』をつけないので、珍しい使い方」だと判断する理由はどういうことなのでしょうか。似たような傾向を持つ言葉で考えると、「ご健康」「ご安産」などは「ご」をつけても違和感はありません。「ご安全」という言葉があまり使われてこなかったから、珍しいと感じただけなのかもしれません。
 挨拶言葉という観点に立てば、「ご安全に」以外にも、仲間内だけで使われている言葉が、他にもいろいろあるかもしれません。それらは、普通の言葉のルールに従わない場合もあることでしょう。

|

« ことばと生活と新聞と(113) | トップページ | ことばと生活と新聞と(115) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« ことばと生活と新聞と(113) | トップページ | ことばと生活と新聞と(115) »