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2020年7月 2日 (木)

ことばと生活と新聞と(132)

不完全な文が連続する「天声人語」


 前回の続きです。まずは6月1日の「天声人語」を引用します。原文は▼印で段落が変わる形になっていますが、段落は行を改めて引用することにします。

 「大人も初めてのピンチにどうすればよいかわからず、なやんでいます。みなさんは歴史の当事者です」。そう呼びかけたのは1年3組の担任の先生。群馬県邑楽町にある長柄小学校では4月から、先生が交代で思いを学校のサイトに書いてきた
 内容は自由。飼育係の先生は「にわとりのミルクと小雪はとても元気です」。チョコの箱の写真とともに「銀のエンゼルマークが出たんです。あと4枚必要です(笑)」という楽しいメッセージも
 図書室の先生はお気にいりの詩を途中まで紹介し、「続きを読みたい人は、学校が始まったら図書室に来てください」と誘った。小林淳一校長(57)は「休校、再開、また休校と目まぐるしい変化でした。子どもたちを何とか励ましたくて始めた試みです」
 授業はなかったけれど、各地で先生たちは知恵を絞った。慣れないラジオに出演して語りかけたり、町役場に出向いて防災行政無線で言葉を贈ったり。10人でダンスする動画の投稿もあった
 さあ6月。きょうから久しぶりに学校へ戻る人も多いだろう。新しいクラスは溶け込みやすいかな。担任の先生はどんな感じ? 遅れた授業はどうなるの。だれしもドキドキハラハラのはず
 「心っていう漢字ってパラパラしてていいと思わない? 心は乱れて当たり前」。絵本『きんぎょがにげた』の作者、五味太郎さんの言葉をみんなに贈りたい。教室に戻るのがつらかったら無理は禁物。あせらず、あわてず、学校生活を取り戻していこう。
 (朝日新聞・大阪本社発行、2020年6月1日・朝刊、14版、1ページ、「天声人語」)

 例えば第1段落の文章は、1文目は引用文だけで、2文目は体言止めの文です。3文目でやっと普通の文章になります。これは新聞記者特有の表現であって、学校教育に持ち込んで真似をしてもらうような書き方ではありません。
 それでは、前回に書いた箇条に沿って指摘していきます。
 「①句読点がきちんと施されていません。段落の最後に句点がありません。」については、すべての段落が該当します。このような新聞特有の書き方は、学校教育とは相容れません。
 「②体言止めの文や、文末を省略してしまっている表現が多くあります。また、活用語をきちんと最後まで表現していない文も多くあります。」については、短い文章の中に次々と出てきます。第2段落の1文目の「自由」、3文目の最後の「楽しいメッセージも」、第4段落の2文目の「贈ったり」、など尻切れトンボの日本語が続出しています。子どもたちに対して、こんな文章も許されるということを教えているのです。
 「③主語と述語が対応していない文が多く、特に、述語を省略している不完全な文が多いのです。」については、第2段落の2文目の「飼育係の先生は」という主語に対する述語がありません。第3段落の2文目は「小林淳一校長(57)は」の述語が省かれています。わかっているなら書かなくてよいという理屈は成り立ちません。
 その他に気づいたことを書きます。第3段落の1文目に来て、やっと整った文が書かれました。けれども漢字・仮名の使い分けで言うと「お気に入り」は漢字で書くのが普通です。「今日」を「きょう」と書くのも新聞の用字です。単に文字数合わせのために利用されているのかもしれません。第5段落の「ドキドキハラハラ」の片仮名も新聞の用字でしょう。文末の「ドキドキハラハラのはず」も尻切れ表現です。第6段落の「無理は禁物」も尻切れで、いささか舌足らずな文章です。
 「天声人語」は中途半端な文字数を設定しています。きちんとした日本語にしようという意識よりも、その文字数に過不足なく合わせようとして、執筆者が遊んでいるのです。そのようなものが学校教育の手本になるはずがありません。昔の「天声人語」に立ち帰ることを考えなければなりません。
 このようなことは、ここに引用した文章だけのことではありません。毎日毎日、同じようなことが繰り返されています。それを、模範的な文章として書き写させようとしているのです。大人には通用するでしょうが、子どもたちにこのような文章の書き方を広めてはいけません。
 こんなことを指摘しても、新聞社は読者の意見などに返事を書こうという意志などはお持ちでないことはわかっていますが、このまま書き続けられると学校教育(国語指導)との関係において問題が大きいと思っております。

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