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2020年7月28日 (火)

ことばと生活と新聞と(158)

「つづくる」という言葉


 『ことば事始め』という本を読んでいると、こんな文章が目にとまりました。

 たしか「つづくる」と言った。
 「ズボン、つづくっといたヨ」
 母親が実物を手に、問題の個所を示しながら言う。念のため目の上に差し上げて明かりにすかしてみた。あてがった布が、きちんと納まっているかどうか、たしかめるためである。
 いま手近な辞書にあたってみると「つくろう(繕う)」はあるが「つづくる」はない。「つづく」につづいてあると思っていたのに「つづける」にとんでしまう。
 田辺聖子の小説に、サラリーマンが飲み屋の女将に上衣を「つづくって」もらうくだりがあって、てっきり日常語と思っていたが、おりおりあるとおり、関西語といったものにあたるのかもしれない。大阪を中心とした上方言葉に特有の語彙であって、この場合は「つくろう」が訛って「つづくる」になったものか。「つくろって使いつづける」を一語にしたようにもとれる。
 (池内紀、『ことば事始め』、亜紀書房、2019年6月21日発行、40ページ~41ページ)

 池内紀さんは姫路の出身ですから、小さい頃には関西言葉の中で育っておられます。書いておられるように「つづくる」は関西で広く使われていますが、それを全国でも使われていると思われて、国語辞典をお引きになったのでしょう。
 この文章で書かれていることについて、異論を一つだけ申します。「つづくる」は衣類などのやぶれたところを修繕するという意味であって、「つくろって使いつづける」という意味ではありません。
 参考として、私の『明石日常生活語辞典』から、関連する個所を引用します。

●つぎ【継ぎ】《名詞》 衣服などの破れたところに、他の布をあてて修繕すること。繕いのため破れ目にあてる布など。「ずぼん(ズボン)・に・ つぎ・を・ あ(当)てる。」〔⇒つづくり【綴くり】、つづくりもん【綴くり物】〕
●つづくり【綴くり】《名詞、動詞する》 衣服などの破れたところに、他の布をあてて修繕すること。そのようにして修繕したもの。「よ(夜)なべ・に・ こども(子供)・の・ ふく(服)・の・ つづくり・を・ する。」〔⇒つぎ【継ぎ】、つづくりもん【綴くり物】〕
●つづくりもん【綴くり物】《名詞、動詞する》 衣服などの破れたところに、他の布をあてて修繕すること。そのようにして修繕したもの。「ひ(引)っかけ・て・ やぶ(破)っ・た・さかい・ また・ つづくりもん・を・ せ・んならん。」〔⇒つぎ【継ぎ】、つづくり【綴くり】〕
●つづくる【綴くる】《動詞・ラ行五段活用》 破れたところに、他のものを補ったりして修繕する。「やぶ(破)れ・た・ たび(足袋)・を・ つづくる。」「にわ(庭)・の・ かき(垣)・の・ やぶ(破)れ・を・ つづくる。」■名詞化=つづくり【綴くり】〔⇒つづる【綴る】〕
●つづる【綴る】《動詞・ラ行五段活用》 ①書類などを一つに束ねて、一続きのものにする。「かみ(紙)・を・ つづっ・て・ たば(束)・に・ する。」②破れたところに、他のものを補ったりして修繕する。「ずぼん(ズボン)・の・ ひ(引)っかけ・た・ とこ・を・ つづる。」③言葉を続けて、文章として書き表す。「えんそく(遠足)・の・ こと・を・ つづる・の・が・ しくだい(宿題)・や。」■名詞化=つづり【綴り】〔②⇒つづくる【綴くる】〕

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