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2020年7月12日 (日)

ことばと生活と新聞と(142)

「サ」も「パ」も自立した言葉ではない


 外来語はカタカナで書きますが、そのカタカナの最初の一文字をとって、その言葉全体の意味をあらわす表記法があります。プロ野球のリーグ名のセントラルを「セ」、パシフィックを「パ」と言いますし、国名のロシアを「ロ」と言うこともあります。
 こんな文章を読みました。文章全体に問題があると思いますので、全文を引用します。

 ホテルの朝食の席で、〈納豆〔略〕税サ込三六三円〉などと値段が書いてあります。これが高いかどうかはともかく、〈税サ込〉とは何だろう。「税込み」なら分かるけど……。
 はい、「税・サービス料込み」ということですね。「サ」の1字だけで「サービス料」を表します。ホテルやレストランでよく使われるですが、少々分かりにくい。以前は「サ別」(=サービス料別)というのも多く見ました。
 これだけ「サ」が目につくなら、辞書の項目にあってもいいだろう。そんなわけで、『三省堂国語辞典』では「サービス料」の意味の「サ」という項目を立てています。
 「サ」は、福祉分野でも「サービス」の意味で使われます。「サ責」と言えば介護の「サービス提供責任者」。「サ高住」と言えば「サービス付き高齢者向け住宅」。見守りなどのサービスつきの住宅です。
 カタカナ1字の略語で、もうひとつ辞書に載せてもいいと思うのは「パ」です。「パ・リーグ」ではなく「パーティー」のこと。「鍋パ」「たこパ」(=たこ焼きパーティー)など、これもよく見ます。
 (朝日新聞・大阪本社発行、2020年7月4日・朝刊、be3ページ、「街のB級言葉図鑑」、飯間浩明)

 「税サ込」という表記は広く行われていますから、わざわざ事新しく取り上げる必要はないと思います。「以前は『サ別』(=サービス料別)というのも多く見ました」というのは当然です。消費税の制度が始まる以前から使われていた表記法だからです。
 「辞書の項目にあってもいいだろう。…(中略)…「サービス料」の意味の「サ」という項目を立てています」という説明は矛盾しています。「サ責」や「サ高住」の「サ」は「サービス料」という意味ではありません。
 そして、このような表記は、この文章の冒頭で私が述べたこととは異なります。「セ」「パ」「ロ」は自立した言葉として、主語になり得ます。「セは、混沌とした首位争いを展開している。」などと言えます。
 それに対して、上に引用した文章に書かれている「サ」や「パ」はしっかり自立した言葉として使われていないのです。そこで述べられている「サ」と「パ」の使い方は、すべて「税サ込」「サ責」「サ高住」「鍋パ」「たこパ」というように、他の言葉と結びついてはじめて意味が示されるのです。「サ」「パ」は自立していません。こんな使い方の「サ」を国語辞典の項目に立てる必要はありません。
 話題を変えます。銭湯に大きな文字で「ゆ」と書いてあります。これは漢字の「湯」ではなくて、ひらがなの「ゆ」です。ひらがなの「ゆ」が独立した意味を持つのです。これこそ国語辞典の項目として採用すべきです。〈ゆ【湯】〉という見出し語のもとで、その一つの使い方として説明している辞典はありますが、そうではなくて、〈ゆ〉という独立した、ひらがなだけの見出し項目を立てるべきです。
 そして、もう一度考えてみてください。〈サ〉というカタカナ見出し項目や、〈パ〉というカタカナ見出し項目を立てて、「サービス(料)」とか「パーティー」とかの説明を書くでしょうか。〈ゆ〉に比べると、まったく自立していない言葉が〈サ〉や〈パ〉なのです。国語辞典は、個人の嗜好で特徴を出すものではありません。

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