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2020年7月 5日 (日)

ことばと生活と新聞と(135)

アベノマスクよりも国語辞典を


 今の日本の首相は、「積極果断な」政策を、「躊躇なく」「間髪を入れず」「一気呵成に」実行しているという自負があるようです。このような言葉を何度も口にしていますが、国民の耳には届きません。国民が聞く耳を持っていないのではなく、発せられる言葉があまりにも空虚であるからです。本人の心の中から出てきた言葉ではなく、周辺の者が書いた言葉を読んでいるだけだからかもしれません。
 もうすぐ「首相用語集」がまとめられて、その意味も記述されるかもしれませんが、その意味・用法は一般の国語辞典と大きく異なるところがあるように思われます。その「首相用語集」が国民に配られたら、言葉の意味の軽さに国民は驚くに違いありません。
 お礼に、国民は首相に、ごく一般的な国語辞典を一冊、差し上げたく思うでしょう。日本語の一つ一つの言葉にはこのような意味・用法があるのだと知っていただくために、差し上げたくなるのです。
 アベノマスクというものが届きましたが、マスクに多額の予算をかけたり、GO TOキャンペーンの取扱手数料を多額に準備したりするよりも、この際、全国の家庭に良質な国語辞典を配付する方が、国家予算の使い方としてはよほど優れたように思います。
 井上ひさしさんの連載広告文を集めた、「ことばの泉」という題名の文章がありますが、その中にこんなことが書かれていました。

明治の初期、新政府は『英和対訳辞書』を作り開拓使学校全生徒に配った。惣郷正明氏の研究によれば、その数は四千部。大学南校(東京大学の前身)も学生に和英辞典を無料配布したらしい。こちらは二千。時代がちがうから同日の談ではないが、これは検討に値する。たとえば全国の中学生に質のいい国語辞典を無料で配るのだ。
 (井上ひさし、『井上ひさし発掘エッセイコレクション 社会とことば』、岩波書店、2020年4月10日発行、136ページ~137ページ)

 これは冗談半分の提言ではありません。ばかげた使い道を考えるよりも、効果のうんと高い予算の使い方だと思います。首相の言語能力の向上にも役立つはずです。全国の中学生ではなく、全国の家庭のすべてに配ればよいのです。

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