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2020年8月 7日 (金)

ことばと生活と新聞と(168)

「想像する」は「思いをはせる」に置き換え可能か


 少し古い記事ですが、「美しいと思う大和言葉」をランキングしたのが出ていました。その1位は「思いをはせる」という言葉であったのですが、こんな説明が書かれていました。

 1位は「思いをはせる」。
 漢語の表現で言えば「想像する」に近いだろうか。だが、意味は同じでも語感が柔らかく、温かみが感じられる。
 北海道の女性(61)から、こんな経験が寄せられた。「友人がご子息を亡くしたとき、かける言葉がなく、『あなたの気持ちに思いをはせるのみ』としか(手紙に)書くことができなかった」
 「はせる」は馬などを「走らせる」ことで、(体はここだが)思いを離れたあなたに向けて走らせるという意味がこもる。ここで「あなたの気持ちを想像するのみ」としたら、神経を逆なでしかねない。
 (朝日新聞・大阪本社発行、2015年12月5日・朝刊、b2ページ、「beランキング」、中島鉄郎)

 この記事の見出しは、〈「想像する」より「思いをはせる」〉となっています。けれども、この2つの言葉は、記事に書かれているように「意味は同じ」とは言えないと思います。「想像する」と表現するところを「思いをはせる」と置き換えてよいわけではありません。それは記事の中で〈「あなたの気持ちを想像するのみ」としたら、神経を逆なでしかねない〉とある通りです。けれどもそれは、「想像する」はまずいけれども「思いをはせる」とすればよいというわけではありません。「はせる」には、気持ちなどを遠くまで至らせるという意味があります。対象物について客観的に「想像する」ことはありますが、「思いをはせる」は違います。対象物(多くの場合は、人)に寄り添うような姿勢で心を巡らせるのです。
 大和言葉の「思いをはせる」は、心の中を表す言葉であるのですが、使うのがふさわしい場合とそうでない場合があることをわきまえることが必要でしょう。「想像を絶するような惨状」とか、「百年前の世の中を想像する」のような場合は、「思いをはせる」という言葉でない方が望ましいように思います。相手とつながることができるかどうかということが肝要でしょう。
 ところで、この「思いをはせる」という言葉を、国語辞典はどう扱っているでしょうか。「思い」や「はせる」の説明はあっても、「思いをはせる」という言葉を説明している辞典は少ないようです。『明鏡国語辞典』はこの言葉を、次のように説明しています。

 遠く離れた人やものに思いを及ぼす。思いをやる。思いを致す。「故郷の空に -」

 ちょっともの足りない気持ちはありますが、見出し語として載せているのは嬉しいことです。このような言葉を辞典に収めようとした編纂者の気持ちに「思いをはせ」て、喜びたいと思います。

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