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2020年9月 9日 (水)

ことばと生活と新聞と(201)

「お上」と皮肉


 コロナ禍によって営業時間などを短縮されるのは、経営者にとってはたいへんなことでしょう。従いたくはなくても、従わざるを得ないという状況になると、不平も言いたくなるでしょう。
 こんな記事がありました。

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、街はひっそりと静まりかえりました。あるバーの店頭にこんな貼り紙が出ていました。
 〈お上のお達しにより当分の間臨時休業致します〉 …(中略)…
 『三省堂国語辞典』の「お上」の項目は〈政府。官庁。役所〉と説明し、〈庶民が多少の皮肉をこめて言う〉と書き添えています。「表面上、奉っているだけ」という意味合いが「お」に込められています。
 「お」は、尊敬や丁寧の意味だけでなく、皮肉な意味も表します。「お偉いさん」「いいとこのお嬢さん」「お決まりの文句」などもそうで、必ずしも褒めていません。
 (朝日新聞・大阪本社発行、2020年7月18日・朝刊、be3ページ、「街のB級言葉図鑑」、飯間浩明)

 「お上」というのは、上の記事の場合は〈政府、官庁、役所〉という解釈でよいと思いますが、一般にはもっと広い意味で使われることもあるように思います。例えば、一般の会社員から見て〈会社の中枢にいる、社長など〉にも使うでしょう。「給料をもらっているから、お上の言うことには反対できない。」などと言うことがあります。
 「お上」という言葉を使うときの気持ちは、「表面上、奉っているだけ」という意味合いは理解できますが、それは〈皮肉〉だけでしょうか。皮肉を言うほどの元気のない場合にも使いますから、〈あきらめ〉という気持ちが込められている場合もあるでしょう。
 皮肉というのは、わざと反対のことを言ったり、遠回しに意地悪いことを言ったりすることです。〈政府、官庁、役所〉は、人々より下にあるのに、わざと「上」と言っているのではありません。「お上」という言葉はストレートな表現で、遠回しな言い方ではありません。自分たちより上にある存在には抵抗できないという気持ちが現れている、すなわち、どうしようもないものへの〈あきらめ〉が込められた言葉ではないでしょうか。
 例えば〈当局の指示により当分の間臨時休業致します〉などと言うよりも、〈お上のお達しにより〉の方こそ、あきらめや、それに対する抗議の気持ちが強いように思います。実は〈お上〉だけでなく、〈お達し〉という言葉にも、その気持ちが凝縮されているように感じられるのです。

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