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2020年9月 3日 (木)

ことばと生活と新聞と(195)

「自分事」と「私色」


 インターネット上で資金を集める「クラウドファンディング」が、新型コロナウイルスの感染拡大で苦境にある人たちの大きな支えになっているというニュースが社会面1ページの半分のスペースで報道されました。その見出しです。

 「自分事」広がるCF支援 / コロナ禍 住まい提供へ1.1億円
 (朝日新聞・大阪本社発行、2020年8月1日・夕刊、3版、7ページ、見出し)

 この見出しの「CF」には「クラウドファンディング」という振り仮名が付けられています。文章の行数の多い記事ですが、「自分事」などという言葉は記事にはありません。似たような意味の表現を探してみます。

 奥田さんは「コロナ感染に誰もが当事者意識を持ち、『明日は我が身』と困窮者への共感が広がった。特別定額給付金の10万円を寄付に充ててくれた人もいる」と話す。
 (朝日新聞・大阪本社発行、2020年8月1日・夕刊、3版、7ページ、神田誠司)

 文字数は異なりますが「自分事」などという言葉よりも「当事者意識」の方が表現的に優れています。「自分事」という言葉の意味は理解できますが、まだまだ熟していない言葉遣いです。「他人事(ひとごと)」はどのような国語辞典にも載っていますが、「自分事」を載せている辞典は少ないと思います。見出しの文字数にこだわった整理部記者の独断と考えるべきでしょう。
 別の話題に移ります。第44回全国高校総合文化祭「2020こうち総文」についてのニュースの見出しです。

 画面越し 私色響かせて
 (朝日新聞・大阪本社発行、2020年7月31日・朝刊、14版、27ページ、見出し)

 「私色」という言葉は本文にあります。以下に引用する文章の前の部分で、「世界で君はひとり 自分だけの色を纏って……」という歌詞が紹介されています。

 6月、高知市のライブハウスで動画を撮影した。先輩が歌ったステージとは違い、客席は空っぽ。それでも、「表情を明るくして、自分で盛り上げる」とマイクの前に立った。「自分だけの色を纏って」に励まされ、「私色の歌声」を響かせた。
 (朝日新聞・大阪本社発行、2020年7月31日・朝刊、14版、27ページ、上原佳久)

 けれども、「自分だけの色」を「私色」に置き換えた理由がわかりません。「私色の歌声」というのは高校生たちの言葉でしょうか、それとも記者が作った言葉でしょうか。「私色」という言葉も、意味は理解できますが、国語辞典に載っている言葉ではないでしょう。
 私たちが日常生活で使う言葉は、新しい表現をしても、周囲の人が使わなければ、そのまま消えていきます。新聞の言葉は、いったん活字になったら、いつまでも残ってしまいます。気を付けて使うべきでしょう。

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