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2020年9月19日 (土)

ことばと生活と新聞と(211)

単に遠慮して断ることを「辞退」とは言わない


 ごくありふりふれた言葉ですが、「辞退」の意味は、国語辞典によって説明の仕方が異なっています。
今年夏の高校野球地方大会は異例の事態になりましたが、兵庫県の場合はベスト8を決めるまでの日程で行われました。その県大会に、3年生部員がわずか2人であったために出場しなかった学校があります。その学校を取りあげた記事の見出しに、「3年生2人 高校野球独自大会辞退の淳心学院」とあり、記事には次のような言葉がありました。

 休校もあって約100日間、練習ができていない。グラウンドを広く使えるのは週2回。梅雨で練習ができない日もあるだろう。練習時間が確保できない状況でけがや熱中症が心配だ。浜田監督は覚悟を決め出場辞退を2人に伝えた。
 (朝日新聞・大阪本社発行、2020年8月10日・朝刊、「神戸」版、14版、21ページ、滝坪潤一)

 このような場合に使う言葉は「不参加」とか「不出場」ではないかと思います。今春の選抜で選ばれた学校が、甲子園球場で1試合ずつ戦うという大会が行われましたが、選ばれていた学校がこの大会に「出ない」という意志を表明したら、それは「辞退」でしょう。
 申し込んだら出場できる大会に「出ない」(=申し込まない)のは「辞退」に相当しないと思います。
 国語辞典の説明と用例を引用しますが、『三省堂』と『旺文社』の説明は不十分であると思います。それ以外の国語辞典の説明は微妙に違いがあって、それが面白いと思います。

『三省堂国語辞典・第5版』
 えんりょして ことわること。
 「就任を - する」
『旺文社国語辞典・改訂新版』
 ①遠慮して引き下がること。②いやだと言って断ること。
 (用例の記載、なし)
『現代国語例解辞典・第2版』
 命令や依頼などを自分にふさわしくないとして断ること。また単に、断ること。
 「就任を辞退する」
『明鏡国語辞典』
 他人の勧めや与えられた権利などを受けられないとして引き下がること。
 「立候補を - する」「個人の遺志により供花の儀はご - 申し上げます」
『岩波国語辞典・第3版』
 人の勧めを断って引き下がること。遠慮すること。
 (用例の記載、なし)
『新明解国語辞典・第4版』
 〔勧め・資格・権利などを〕自分の意志で断ること。
 (用例の記載、なし)
『広辞苑・第4版』
 へりくだって引き下がること。(任命・勧誘などを)ことわること。遠慮。
 「謝礼を - する」
『日本語 語感の辞典』
 遠慮して断る意で、やや改まった会話や文章に用いられる漢語。
 「出場 -」「入学 -」「役員に推薦されたが - する」

 「辞退」は単に、遠慮して断ることではありません。断る前に、その前提となるものがあるのです。それを国語辞典は、任命、命令、勧誘(勧め)、依頼、権利、資格という言葉で説明しているのです。そういうものがない場合は、遠慮して断る(=申し込まない)ことにしても、それは「辞退」に相当しないと思います。
 用例を見ると、任命、命令、勧誘(勧め)、依頼、権利、資格などが前提になっていることは明白です。要請されていないのに「就任辞退」などという言葉は使えませんし、合格通知をもらっていない学校に「入学辞退」をすることもあり得ません。

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