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2020年10月21日 (水)

ことばと生活と新聞と(243)

国語辞典では説明できていない「幻」


 「幻の名酒」「幻のラーメン」「幻の宝石」などという言葉があります。それは厳然と存在するのですが、なかなか手に入れることが難しいものです。すぐさま消えてしまうのではありませんが、なかなか手近に存在するものではないのです。広告などで使われる「幻の…」という言葉は、すべて現実に存在するもののはずです。そうでなければ、それを商品にできるはずがありません。
 こんな新聞記事もありました。

 ダム湖の水位変化で見え隠れするため「幻の橋」と呼ばれる北海道上士幌町の旧国鉄士幌線「タウシュベツ川橋梁」で、今年に入って新たに2カ所で大きな崩落が確認された。「11連のアーチが見られる姿も今年が最後」とささやかれて久しいが、関係者たちは「崩落を止めることはできない」と静かに見守っている。
 (朝日新聞・大阪本社発行、2020年9月23日・夕刊、3版、6ページ、「朝デジから」、中沢滋人)

 この橋梁は、間違いなく存在しているのですが、ダム湖の水位の変化で見えなくなる時期があるようです。消えてしまって再び見ることができない、というわけではありません。記事には書かれていませんが、この橋は、交通の便のよくない場所にあるので、見に行くのもたいへんなようです。それが「幻の…」と言われる理由でしょう。
 さて、国語辞典で「まぼろし(幻)」を引くと、次のような説明が書かれています。

『新明解国語辞典・第4版』
 それを見たり聞いたりした人があったと言われているのに、現実には存在が確認されていないもの。
『岩波国語辞典・第3版』
 ①実際にはないものが、あるように見えること。そういうもの。
 ②たちまちのうちに、はかなく消えてしまうもの。
『明鏡国語辞典』
 ①現実には存在しないのに、あるように見えるもの。幻影。
 ②存在が確認されていないもの。
『三省堂国語辞典・第5版』
 ①そこにはないのに、あるように見えるもの。
 ②あると言われているのに、見つからないもの。
『旺文社国語辞典・改訂新版』
 ①実際にはないものがあるように見えること。また、その見えたもの。幻影。
 ②たちまち消えるもの。はかないもの。
『現代国語例解辞典・第2版』
 ①実在しないものの姿が実在するように見えるもの。
 ②たちまち消えるはかないもの。
 ③存在が確かめられないもの。
『広辞苑・第4版』
①実在しないのにその姿が実在するように見えるもの。幻影。はかないもの、きわめて手に入れにくいもののたとえ。
 ②幻術を行う人。魔法使い。
『チャレンジ小学国語辞典・第4版』
 ①ほんとうはないのに、あるように見えるもの。
 ②話には聞くが、実際にはなかなか見られないもの。
 ③すぐに消えてしまうもの。はかないもの。

 実際にはないのにあるように見えるものとか、存在が確認されていないものとか、あるいは、存在してもたちまち消えてしまうものという説明になっています。「幻の酒」や「幻の橋」がたとえ比喩の要素を含んだ表現であるにしても、辞典のこのような説明では堪えられません。
 なんとか持ちこたえられるのは、一般の国語辞典の中では、中型辞典の『広辞苑・第4版』の①のうち、「きわめて手に入れにくいもののたとえ。」という説明しか見当たりません。
 子ども用の『チャレンジ小学国語辞典・第4版』の②「話には聞くが、実際にはなかなか見られないもの。」という説明が、最も適合するものだと言えます。子ども用の国語辞典にしか適切な説明が見出せないというのは、驚くことではありませんか。
 国語辞典編纂者である人が筆者になっている「街のB級言葉図鑑」が、毎週、新聞に連載されていますが、実におかしな言葉ばかりほじくり出している感じです。日本語のありのままの言葉をきちんと正確に説明する努力をされる方が、読者に対しては親切であると思います。

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