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2020年10月 9日 (金)

ことばと生活と新聞と(231)

「鉄板ネタ」とは何か


 新聞には新しい言葉が次々に登場します。それは仕方のないことですが、どのような時期に、どのような使い方をするか、ということにはしっかりとした見識が求められます。
 こんな記事を読みました。

 ぶぶ漬けを待たずに帰る京の人--。京都の鉄板ネタを交えて新型コロナウイルス対策を訴える絵入りの大きな標語広告が京都市内に登場した。
 「ぶぶ漬け(茶漬け)」は長居客を退散させる定番表現。標語は、用が済んだら帰宅をと促すのが狙いだ。観光客に人気の新京極商店街が掲示している。
 等間隔に座る鴨川のカップルを例に「距離あける京の人ならお手のもの」なども。同商店街振興組合の担当者は「楽しめる感染対策でおもてなししたい」
 (朝日新聞・大阪本社発行、2020年10月1日・朝刊、14版、28ページ、「青鉛筆」)

 「ぶぶ漬けを待たずに帰る京の人」も「距離あける京の人ならお手のもの」もよくわかる表現です。京都の人の習慣などがよく現れています。
 ぶぶ漬けをすすめるのは、早く帰ってほしいという意味が込められているというのは、他の地域の人には通用しない表現でしょう。けれども、この言葉がいろいろなところに取り上げられて、今では知っている人も多くなっていることでしょう。ちょっと意地悪な言葉遣いであるという印象は棄て切れません。
 ところで、この記事は年若い記者が書いたのでしょうか。「鉄板ネタ」という言葉がわかりません。「定番表現」というのと同じ意味であるのかと思いましたが、そうでもないように感じます。
 国語辞典はいつも机上にありますから、引くことは簡単ですが、こんな言葉が国語辞典に載っているはずがありません。国語辞典で確かめられない言葉を、新聞紙面で安易に使ってほしくないと思います。
 ホームページで調べてみると、「絶対笑える、滑らない面白い話」、「相手から良いリアクションを受けることが確実視される、絶対に受けるネタ」、「とっておきの話・秘話・すべらない話」、「必ず受ける(笑ってもらえる)話題」、「盤石で必ず成功するネタ」などの説明がありますが、これらは、その説明を書いた人の主観が強く出ています。客観的にどのような要素が含まれているものを「鉄板ネタ」と言うのか、まだ定まっていないのかもしれません。「笑える」という要素が欠けていてはいけないのか、「相手からの良いリアクション」が欠けていては「鉄板ネタ」と言えないのか、そのあたりがまだ定まっていないように思います。「とっておきの話・秘話」ということであれば、笑いも良いリアクションも必要でないでしょう。
 言葉は揺籃の時期を経て、意味・用法がしっかりとしたものになっていきます。若者が揺れた使い方をしている時期に、新聞のニュース面などに使うのは考えものでしょう。

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