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2020年10月12日 (月)

ことばと生活と新聞と(234)

「セット」と「キット」は同じか


 新型コロナウイルスの感染防止のために自宅で過ごす時間が多いことを「巣ごもり」と言うそうです。この言葉はマスコミの口の悪さを象徴するような表現のように感じています。「家飲み」などという品の良くない言葉もあります。わざわざこんな言葉を使わなくても、ゆるやかな表現はできるはずです。わざとらしい言い方をするのが新聞記事だといわんばかりです。
 こんな記事がありました。

 食品メーカーが「巣ごもり消費」をねらった新商品を相次いで発売している。コロナ禍で自宅で過ごす時間が増えたことを受け、調理の楽しみを売りにしたり、定番商品の量を増やしたり。おなじみの菓子をひと工夫した「家飲み」向けのおつまみも登場した。
 わずか10分で、プロの味の料理がつくれる--。総菜店「RF1」を運営するロック・フィールドは8月、そんなうたい文句の調理キットを発売した。「豚肩ロースのグリエ」など4種類。下ごしらえした肉や野菜、ソースといったセットで、フライパンで炒めるなどして仕上げる。買ってきてそのまま食べるのではなく、最後にひと手間加えることで、つくる楽しみを感じられるようにした。
 (朝日新聞・大阪本社発行、2020年9月11日・朝刊、13版S◎、6ページ、加茂謙吾)

 同じ商品についての説明で、「キット」と「セット」という2つの言葉が使われています。単なるミスプリントではないようです。
 「キット」は、模型や機械などで、部品がひと揃いになっていて、組み立てられるようになっているもののことです。道具一式のことも表します。キットのことを「セット」と表現することは可能でしょう。
 けれども「セット」という言葉がふさわしいものを、「キット」に置き換えることはよくないでしょう。
 この商品の写真説明にも「ロック・フィールドが発売した調理キット」という言葉が使われています。写真を見ても、この商品は食材を組み合わせたものであっても道具などは含まれていません。「キット」という表現は、明らかにおかしいでしょう。
 若い現代人には、食べ物は買ってきて組み立てて食卓に出すというような意識の人が現れ始めているのでしょうか。このような細切れの食材では、自然の動植物の命をいただいているのだという感覚は失せてしまっているのでしょうか。たった一言の言葉の誤用が、人間の感覚の大変化を表しているように感じました。

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