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2020年11月26日 (木)

ことばと生活と新聞と(279)

日本語の「むつかしないな問題」


 言葉のことを扱った記事で、「せわしない」のような言い方をする言葉のことが取り上げられていました。こんなことが書かれていました。

 師走の背中が見え始め、せわしなくお過ごしの方も多いかもしれません。……あれ、「せわしなく」って、「せわしい」のに、なぜ「ない」がついているのでしょう。
 「せわしない」を辞書で引くと、「いそがしい。落ち着かない」そして「せわしい」。「ない」がつけば逆の意味になるはずなのに、「せわしない」と「せわしい」はやっぱり同じ意味じゃないか……。頭がこんがらがっていたところ、国立国語研究所の柏野和佳子教授(日本語学)の言葉が大きなヒントになりました。「せわしないの『ない』は、否定の意味ではないんです」
 柏野さんによると、この「ない」は、性質や状態を表す語に付いて意味を強調する接尾語。否定を表す「ない」とは、同じかたちで意味が違う言葉だそうです。 …(中略)…
 ややこしい!というのは昔の人にとっても同じようで、説話「今昔物語集」の江戸時代の写本にも「半無(はしたな)く」と、「無」という表記が見えます。
 (朝日新聞・大阪本社発行、2020年11月21日・朝刊、13版S、13ページ、「ことばサプリ」、青山絵美)

 この文章では、同じような働きをしている語の例として、「せつない」「ぎこちない」「あどけない」などの例が挙げられています。
 さて、私の日常生活(方言生活)では、「こんな むつかしないな 問題は わからへん。」というような言い方をします。「難しい」は清音で「むつかしい」と言うのですが、「むつかしい」に比べて、「むつかしないな」はより複雑で難度が高いという語感を伴っています。
 「だいじ(大事)ない 物を 貰(も)ろーて 申し訳おまへん。」と言う場合の「物」は、「だいじな 物」より程度が上がると感じられます。「たいせつ(大切)ない」と「たいせつな」との関係も同じです。「ややこしない(または、やいこしない)」と「ややこしい(または、やいこしい)」の関係も同様です。程度が深まる(上がる)と考えるべきでしょう。「……ない」となる方は、ほとんど活用することはないので、連体詞として扱うべきでしょう。接尾語というようには感じられません。
 上記の引用した文章では、「せわしい」=「せわしない」のようにされていますが、ちょっと違うと思うのです。柏野さんの説明にもありますように、「ない」は、性質や状態を表す語(つまり形容詞や形容動詞など)の意味を強調する働きをしていますから、「……ない」という形の方が、意味は深くなっているのです。
 それにしても、この話題はなかなか面白い問題を含んでいますから、新聞の読者の方々も興味を持たれたのではないでしょうか。
 それに比べると、同じ日に掲載された、もう一つの言葉の記事は知識の投げ売りの感じがしました。こんな文章です。

 かつては、たばこが吸える店が普通で、禁煙の店は「禁煙店」とわざわざ強調してお客を呼んでいました。今後は、逆に喫煙店のほうに表示義務が生じるのですから、世の中の常識の変化を感じます。
 以前から普通にあったものを、新しいものと区別するため、改めて名前をつけ直すことがあります。「レトロニム」と言います。「禁煙可能店」などもレトロニムです。
 (朝日新聞・大阪本社発行、2020年11月21日・朝刊、be3ページ、「街のB級言葉図鑑」、飯間浩明)

 カラーテレビが出現したときに、それをテレビと呼び、以前からのものを白黒テレビと呼びました。炬燵も今は電気炬燵しかありませんから、昔の物は「たどんを入れた炬燵」でしょう。そんな言葉はいくらでもあります。レトロニムなどという言葉を教えていただく必要はありません。
 それにしても、「禁煙可能店」などという言葉は見たことがありません。これは誤植で、筆者も校閲担当者も気付かなかった誤りでしょう。「禁煙可能店」という例があったら、ぜひ写真で拝見したいと思います。

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