2019年11月15日 (金)

明石日常生活語辞典・追記(68)

言葉の意味の記述


 ひとつひとつの言葉をどのように見出し語とするか、それぞれの言葉の意味をどのように記述するか、というのは大きな問題です。
 同じ発音であっても漢字で書き分けられますし、意味を幾つかに区分して記述することも可能です。
 「明石日常生活語辞典」は800ページを越えますが、国語辞典で言うと大型の「日本国語大辞典」や、中型の「広辞苑」に匹敵するようなボリュームではありません。小型の国語辞典よりもやや詳しい説明を施して、それぞれに用例を付したという形のものです。
 言葉の意味の記述については、次に引用する文章で述べられていることに近いように思います。


 現代の辞書においては、語義の記述が細かくなる傾向にあるように感じる。そのことは丁寧であると評価できる反面、具体的な文脈に寄りすぎて、かえって中心的な語義が不鮮明になるという面ももつと考える。語はそれが置かれた文脈によって、「文脈的意味」を発揮する。語には「辞書的意味」と「文脈的意味」とがある。同じ語を使った文が五〇あれば、(いささか極端なものいいにはなるが)「文脈的意味」は五〇あるということもできる。そうした「文脈的意味」を丁寧に記述しようとすると、辞書の語義記述は膨大なものになっていく。『岩波国語辞典』が「現象的な意味をいちいち細かく分けて説明するよりも、基本的な意味を明らかにするようにした」とは、「文脈的意味」よりも「辞書的意味」の記述をこころがけたということの表明にみえる。
 (今野真二、「辞書をよむ」、平凡社(平凡社新書)、2014年12月15日発行、57~58ページ)

 それぞれの文脈に沿った意味などを詳しく記述することをしなくても、基本的な意味(上記の引用文で「辞書的意味」と述べているもの)が、いくつかに分かれる言葉もあります。用言などは、その言葉の意味をできるだけ詳しく述べようと考えますから、分類項目の数が多くなることもあります。けれども、その分け方は、それぞれの辞書の編集者の意図に任されることになります。
 「明石日常生活語辞典」で、「つく」という動詞を説明した例を、以下に引用します。

●つく【付く、着く】《動詞・カ行五段活用》 ①2つ以上のものの隙間がなくなる。ものとものとがぴったり寄り添うようになる。「ほーむ(ホーム)・に・ でんしゃ(電車)・が・ つい・た。」②ものが接合して、離れない状態になる。「て(手)・に・ すな(砂)・が・ つい・た。」③ものの表面に力が加わって、印や跡がそのまま残る。「かみ(髪)・に・ ねぐせ(寝癖)・が・ つい・とる。」④元のものに何かが加わる。「や(焼)い・たら・ こ(焦)げめ・が・ つい・た。」「ちょきん(貯金)・に・ りし(利子)・が・ つく。」「はら(払)う・ とき(時)・に・は・ しょーひぜー(消費税)・が・ つく。」⑤添っているようにする。「そば(傍)・に・ つい・て・ せわ(世話)・を・ する。」「こども・に・ つい・て・ でか(出掛)ける。」「びょーいん(病院)・で・ おや(親)・の・ そば(傍)・に・ つい・とる。」⑥それまでになかった技能・知識などが備わる。「だいく(大工)・の・ うでまえ(腕前)・が・ み(身)・に・ つい・た。」⑦体力・知力などが加わる。「うま(美味)い・ もん・を・ く(食)・て・ げんき(元気)・が・ つい・た。」⑧感覚として知る。「ちい(小)さい・ ごみ(塵)・が・ め(目)・に・ つい・た。」「わすれもん(忘物)・に・ き(気)・が・ つい・た。」⑨ものごとに結果や結論が出る。おさまりがつく。「あいつ(彼奴)・と・の・ はなし(話)・が・ つい・た。」⑩新しいものが生じたり、効果が現れたりする。「しんかんせん(新幹線)・が・ つい・た。」⑪草木が根をおろす。「う(植)えかえ・た・ まつ(松)・の・ き(木)・が・ つい・た。」⑫費用や値段がかかる。「ことし(今年)・の・ せーぼ(歳暮)・は・ たこ(高)ー・ つい・た。」⑬運が向く。「ぎりぎり・ でんしゃ(電車)・に・ ま(間)におー・て・ きょー(今日)・は・ あさ(朝)・から・ つい・とる・なー。」■他動詞は「つける【付ける、着ける】」
●つく【突く、撞く】《動詞・カ行五段活用》 ①尖ったものや棒の形のもので強く押す。「えんぴつ(鉛筆)・の・ さき(先)・で・ つく。」②ものに押し当てる。「はんこ(判子)・を・ つい・てもらう。」③細長い物を持って、支えにする。「つえ(杖)・を・ つい・て・ ある(歩)く。」④前の方に押す。押し上げる。「きゅー(急)な・ さか(坂)・やっ・た・ん・で・ じてんしゃ(自転車)・を・ お(降)り・て・ つい・て・ あ(上)がっ・た。」「りやかー(リヤカー)・を・ つい・ていく。」⑤当てて鳴らす。「ゆーがた(夕方)・に・ かね(鐘)・を・ つく。」◆④の場合、自転車を「つく【突く】」のは自転車の真横の位置で、リヤカーを「つく【突く】」のはリヤカーの後ろの位置からである。自転車の場合もリヤカーの場合も「おす」という言い方もできる。リヤカーの場合、人とリヤカーの位置が逆になると「りやかー・を・ ひ(引)ー・ていく。」(または、「ひっぱっ・ていく。」)ということになる。
●つく【着く】《動詞・カ行五段活用》 ①進んで行って、ある場所に達する。「む(向)こー・に・ つい・たら・ でんわ(電話)し・なはれ・よ。」「ふね(船)・で・ こーべ(神戸)・に・ つい・た。」②曲げたり伸ばしたりした結果、ある場所に届いて、触れる。「ゆび(指)・の・ さき(先)・が・ ち(地)・に・ つく。」
●つく【点く】《動詞・カ行五段活用》 ①灯心などに火が移ったり、電気器具のスイッチが入ったりして、明るくなる。「てーでん(停電)・が・ なお(直)っ・て・ でんき(電気)・が・ つい・た。」②炭や薪などが燃え始める。「れんたん(練炭)・が・ つい・た。」「き(木)・が・ しめ(湿)っ・とる・さかい・ ひ(火)・が・ つか・ん。」■他動詞は「つける【点ける】」〔①⇒とぼる【灯る】、ともる【灯る】〕
●つく【搗く】《動詞・カ行五段活用》 生または蒸した穀物などを杵などで強く打って、精白したり軟らかくしたり押しつぶしたり混ぜ合わせたりする。「しょんがつ(正月)・の・ もち(餅)・を・ つく。」
●つく《動詞・カ行五段活用》 言葉で相手に伝える。「でたらめな・ はなし(話)・を・ つき・やがっ・た。」「うそ(嘘)・を・ つか・ん・よーに・ し・なはれ。」◆望ましくないことを言うときに使うことが多い。〔⇒ゆう【言う】〕

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2019年11月14日 (木)

明石日常生活語辞典・追記(67)

訛りの言葉


 「明石日常生活語辞典」は、同じ言葉を、発音を違えて言う場合は、それをすべて取り上げて見出しにするようにしています。
 発音は厳密に言うと、ひとりひとりで異なるものですから、そのすべてをとりあげることは無理でしょうが、多くの人が認めている発音の違いについては、それを見出し語として取り上げるように努力をしました。
 「枕草子」を書いた清少納言は、言葉の訛りを好んでいませんでした。標準的な言葉遣いから離れないように心がけるべきだと考えていたようです。そのことについて述べた日本語学者の文章を引用します。


 清少納言は、訛りの入った言葉が特に嫌いです。「ふと心劣りとかするものは」(一八六段)では、発音を省略したり、訛ったりしているのを悪い例としてあげています。「言はんとす(=言おうと思う)」と言わなくてはならないのに「言はんずる」と縮めて発音したり、「ひとつ車」と言うべきところを「ひてつ車」と訛ったりすると、「もうそれだけでだめ!」と切り捨てています。現在に当てはめると、「うまい」と言わずに「うめー」と言ったり、「朝日(あさひ)」と言うべきところを「あさし」などと訛ったりすると許せないと言うわけ。確かに、と言いたくなりますね。でも、下品な言葉でも、悪い言葉でも、本人がそうだと心得た上で、わざと言ったりするのは認めています。そういう言葉の効果も心得ていて、柔軟です。
 (山口仲美、「日本語の古典」、岩波書店(岩波新書)、2011年1月20日発行、80ページ)

 清少納言の言葉遣いの好悪についての意見には納得しますが、古典の文章を読んでいますと、高等学校の教科書に出てくる文章でも、「言はんとす」と書くのが正統である箇所を「言はんずる」と書いているの出くわすことがあります。書き言葉でさえそのような状況なのですから、話し言葉ではもっと頻繁であったと思われます。
 何度も言いますが、方言は話し言葉の世界のものです。訛りや発音の省略はしばしば現れます。それらを、いちいち好ましくないとか醜いとか言っているとキリがありません。それらを現実の言葉の姿であると認めることから方言研究は始まると言うべきだろうと思います。
 一例を挙げます。「こども(子供)・に・ ほん(本)・を・ よ(読)ん・であげまし・た。」というときの文末「てあげます」は、「てあいます」「てあえます」「てやいます」「てやえます」と変化することがあります。
 「明石日常生活語辞典」の「てあげます」の項を引用します。

●てあげます〔であげます〕【て上げます】《補助動詞・サ行五段活用》[動詞の連用形に付く] 「してやる」ということをへりくだって言う言葉。して差し上げる。「おい(美味)しー・ みかん(蜜柑)・を・ おく(送)っ・てあげまし・てん。」◆接続助詞「て」に、動詞「あげる【上げる】」が続き、さらに丁寧の意の助動詞「ます」が続いて一語に熟した言葉である。けれども、丁寧語というよりはむしろ謙譲の気持ちが込められた言葉になっている。ただし、動物などを相手に使うこともあって、その場合は敬意は消えている。補助動詞としての用法は、必ず「てあげます」の形で使い、「あげます」だけの言い方はしない。〔⇒てあいます【(て上います)】、てあえます【(て上えます)】、てやいます【(て遣います)】、てやえます【(て遣えます)】〕

末尾の ⇒印 の後ろにあげた言葉は、この辞典で見出し語としてしている言葉ですが、話す人によっては、さらに発音が変化したり崩れたりすることもあるかもしれません。

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2019年11月13日 (水)

明石日常生活語辞典・追記(66)

うそだます


 言葉は、他の人の言い方を真似て使うということが多いと思います。私が小さい頃(小学生あたり)では、「うそ(嘘)をつく」という言い方は、あまりしていなかったように思います。「こそをこく」というのは大人が使っていたように思います。
 子どもたちにとっては、それが本当なのか、本当でないのかということは大問題です。嘘をつかれたなら、大声で抗議をしたくなります。そんな時に、子どもたちが使っていたのは「うそだます」という言葉でした。お金をごまかすことなどは、子どもにとっては大変な出来事です。遊んでいてルールにそぐわない不正なことをするのも非難の対象になります。そんなときに使う言葉が「うそだます」です。
 大学入学共通テストで活用予定だった英語の民間試験について、2020年度からの導入を見送るという発表が、唐突に行われました。「身の丈」発言と無関係ではありません。受験予定の人たちにとっては、本当に「うそだまされた」という気持ちが強いはずです。
 「うそ(嘘)」という言葉と「だま(騙)す」という言葉では、意味が重なりますが、この言葉を使っていました。強調する意図があったかどうかは、わかりません。
 動詞の働きをしているのは「だます」ですから、動詞の前に「うそ」という言葉を置いただけであるのかもしれません。
 この言葉は、子どもたちだけでなく大人も使っていたように思います。現在でも使っている人はあるでしょうし、その言葉を聞いても違和感はありません。けれども、その言い方はしだいに減ってきているように感じられます。
これと同じような、意味が重なるような動詞は、他にはちょっと見当たらないように思います。
 「明石日常生活語辞典」の「うそだます」の項目を引用しておきます。

●うそだます【嘘騙す】《動詞・サ行五段活用》 本当でないことを言う。相手が本当であると信じるようなことを言う。「うそだまし・たら・ みんな・が・ しんよー(信用)し・てくれ・へん・で。」◆「うそ(を・つく)」と「だます」という同義の言葉を重ねて表現して、強調している。■名詞化=うそだまし【嘘騙し】〔⇒うそ(を)つく【嘘(を)つく】、うそ(を)こく【嘘(を)こく】〕

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2019年11月12日 (火)

明石日常生活語辞典・追記(65)

読んどく、読まんとく


 「この・ ほん(本)・を・ あした(明日)・まで・に・ よ(読)ん・どく。」の、「よんどく」の部分は、動詞「よむ」と助動詞「とく(どく)」が合わさってできています。
 「おもろ(面白)・ない・さかい・ この・ はなし(話)・は・ よ(読)ま・んとく。」の「よまんとく」の部分は、動詞「よむ」と助動詞「んとく」が合わさっています。「んとく」は、助動詞「ん」と助動詞「とく」に分けることもできます。
 「とく」という助動詞は、何かにそなえて予め何かをするという意味や、きちんと何かをするという意味を表す言葉です。意志の気持ちが加わった言葉です。
 ところが、他人が発する言葉に「とく」が使われますと、命令の意味になります。「いちじかん(一時間)・で・ しあ(仕上)げ・とけ。」と言われれば、それに従わなければなりません。
 「んとく」という助動詞は、そういうことをしないでおくという意味を表します。これも意志が表現されています。「とく」と同じように、「き(気)・に・ い(入)ら・ん・の・やっ・たら・ い(行)か・んとけ。」と命じることもあります。
 「明石日常生活語辞典」では、辞典の引きやすさを考えて、「とく」という項目の他に、「んとく」という項目も作っています。「んとく」は、「ん」「とく」の2語でも引けますが、「んとく」の1語でも引けるようにしているのです。この辞典の「とく」と「んとく」の項目を引用します。

●とく〔どく〕《助動詞》 何かにそなえてあらかじめ何かをするという意味を表す言葉。きちんと何かをするという意味を表す言葉。「れんしゅー(練習)・で・ まいあさ(毎朝)・ はし(走)っ・とく・ こと・に・ する。」「まえ(前)もって・ よ(読)ん・どか・んと・ しっぱい(失敗)する・ぞ。」「おかね(金)・を・ た(貯)め・とき・なはれ。」「しっかり・ よー・ き(聞)ー・とけ。」

●んとく《助動詞》 しないでおくという意志を表す言葉。「おもろ(面白)ない・みたいや・さかい・ あの・ えーが(映画)・は・ み(見)・んとく・ねん。」

 言うまでもないことですが、「読んどく」の「ん」は動詞の連用形の撥音便です。「読まんとく」の「ん」は打ち消しの意味を持つ言葉で、古語では「ぬ」にあたる言葉です。

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2019年11月11日 (月)

明石日常生活語辞典・追記(64)

ふみちゃんこ、きっちゃんちゃんこ


 「ちゃんこ」という言葉を国語辞典で引くと、相撲部屋独特の鍋料理という説明が書かれています。大鍋に魚介、肉などのぶつ切りと野菜を入れて、水炊きのようにしたり煮込んだりしたもののことです。言葉の由来について、その料理の番をする人のことを「ちゃん」と呼んだことから、という説明があります。
 さて、私たちの地域の方言で「ちゃんこ」という言葉は、すこしイメージが異なります。乱暴とか乱雑というような印象が伴う言葉です。「ちゃんこ」だけで使われることはありませんが、例えば、「ふみちゃんこ」とか「きっちゃんちゃんこ」とかという形で使われます。「ほん(本)・を・ ふみちゃんこに・ し・たら・ あか・ん・やろ。」「きょー(今日)・の・ しんぶん(新聞)・を・ き(切)っちゃんちゃんこに・ し・ても・とる。」などと言います。
 「明石日常生活語辞典」に書いている、この2語の説明を引用します。

●ふみちゃんこ【踏みちゃんこ】《形容動詞や(ノ)、動詞する》 やたらに踏みにじっている様子。繰り返して何度も踏みつける様子。「いぬ(犬)・が・ きれー(綺麗)な・ はな(花)・を・ ふみちゃんこに・ し・とる。」

●きっちゃんちゃんこ【切っちゃんちゃんこ】《形容動詞や(ノ)》 ①ものを細かく切り刻んだ様子。「きゃべつ(キャベツ)・を・ きっちゃんちゃんこに・ し・て・ いた(炒)める。」②ものを秩序なく切ってしまっている様子。「だいじ(大事)な・ かみ(紙)・を・ こども(子供)・が・ きっちゃっちゃんこに・ し・ても・て・ あそ(遊)ん・どる。」

 「ちゃんこ」を使う言葉は多くはおりませんが、時には、例えば次のような表現を聞くこともあります。「りょーはし(両端)・を・ つな(繋)げちゃんこに・ し・たら・ あか・ん。 はな(放)し・とけ。」

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2019年11月10日 (日)

明石日常生活語辞典・追記(63)

たったひとりの、たったひとつの


 「明石日常生活語辞典」はどんな言葉を集めたものかという質問があります。質問をされなくても、辞典の言葉の収集範囲について、疑問を持っておられる方があるかもしれません。今回は、それに関する話題です。


 10月6日に、プロ野球投手であった金田正一さんが死去しました。そのニュースの記事の見出しが次のようになっていました。

 金田正一さん死去 / 86歳 唯一の400勝投手
 (朝日新聞・大阪本社発行、2019年10月7日・朝刊、14版◎、1ページ、見出し)

 「唯一」とは、ただひとつであること、という意味です。「唯一無二」とか「唯一の方法」とかの使い方をします。「唯一の人」という使い方はするでしょうか。「唯一」は物を表す言葉であって、人を表す言葉ではないように思います。「400勝投手」というのを物扱いするのなら成り立つ言葉遣いです。
 話し言葉では、「唯一」という言葉を使うことは少ないだろうと思います。物ならば「たったひとつの」と言い、人ならば「たったひとりの」と言うだろうと思います。
 新聞社が、そんな長ったらしい見出しは書けない、と反論することは十分承知しています。言葉を短くするために、本来の言葉遣いのやり方をぶち壊しているのが新聞の見出しですから、私はそんな言い訳をを受け入れるつもりはありません。

 さて、「明石日常生活語辞典」は話し言葉の辞典です。漢字熟語である「政治」や「経済」や、「学校」や「鉄道」などという言葉を使わないで日常生活を営むことはむずかしいでしょうが、「唯一」などという堅苦しい言葉は使わなくても、他の言い方ができます。日常生活の言葉としては、漢字熟語をできるだけ少なくしています。話し言葉ですから、少しぐらい長い言葉遣いになってもよいのです。同音異義の多い漢字熟語を使わないようにしています。
 学校教育などで教えられなくても、それぐらいのことは誰でもわかります。そのような、知らず知らずの間に身に付けて、日常生活で使っている言葉を集めた辞典です。何度も書きますが、俚言も使い、関西共通語も使い、全国共通語も使っているのですが、むずかしい漢語などはできるだけ使わないのが、日常生活の言葉です。
 参考までに、「明石日常生活語辞典」の「たった」の説明を引用しておきます。

●たった《副詞の》 ①それだけをとりたてて限定する言葉。「たった・ それ・だけ・の・ こと・や・のに・ ごっつー・ おこ(怒)ら・れ・た。」②予想や期待に反して、ほんの僅かの数量である様子。「いちにち(一日)・ はたら(働)い・て・ たったの・ ごせんえん(五千円)・しか・ くれ・へん。」③時刻の上で、わずかの違いである様子。「たった・ いま(今)・ でんしゃ(電車)・が・ で(出)・ても・た・ とこ・です。」「あいつ・が・ い(去)ん・だ・ん・は・ たった・ さっき・や。」〔①⇒ただ【唯】〕

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2019年11月 9日 (土)

明石日常生活語辞典・追記(62)

ぶんか(文化)

 

 

 11月3日は文化の日でした。「〇〇の日」というとそれに関することが取り上げられることが多いのですが、文化の日は例外であるのかもしれません。
 その日のA新聞の1面では、台風19号で決壊した河川のうち浸水想定区域図が作られていたのは半数であったということ、京都アニメーションのお別れ式典のこと、ラグビーのワールドカップで南アフリカが優勝したこと、の3つが報じられていました。社説は五輪マラソンが札幌になったことを取り上げていました。スポーツ偏重、文化軽視は、文化の日にも顕著でした。
 さて、日常生活で「文化」という言葉を聞くことは、ほとんどありません。使う人は使うでしょうが、使わない人はまったく使いません。日常の話し言葉では、そのような抽象的な言葉を使うよりは、音楽、絵、歌舞伎、映画、小説、短歌……などと具体的に分けて使うことが多いからです。文化とはどの範囲を指す言葉なのか、よくわからないままに使うことはしないのが、人々の意識です。抽象度の高い「文化」という言葉は、日常の言葉と言えるのでしょうか。
 「明石日常生活語辞典」では、祭日の一つである「ぶんかのひ」は見出しにしましたが、「ぶんか」は見出しにしませんでした。「あした(明日)・は・ ぶんかのひ・で・ やす(休)み・や。」と喜ぶことはしますが、「むら(村)・の・ よりあい(寄合)・で・ ぶんか・の・ こと・を・ そーだん(相談)する。」などということは、ほとんどあり得ないことです。
 参考までに、「明石日常生活語辞典」の「ぶんかのひ」の説明を引用します。

 

●ぶんかのひ〔ぶんかのひー〕【文化の日】《名詞》 国民の祝日の一つで11月3日に設定されており、自由と平和を愛し文化を推進する日。「ぶんかのひ・の・ やす(休)み・は・ きく(菊)・を・ み(見)ー・に・ い(行)こ・か。」◆戦前は「めいじせつ【明治節】」と言われた日で、現行憲法の公布の日でもある。

 

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2019年11月 8日 (金)

明石日常生活語辞典・追記(61)

にっしゃかし(西明石)、つっちゃま(土山)

 11月7日、山陽電気鉄道の明石駅で、大阪梅田発・姫路行きの直通特急の電車がパンタグラフを損傷して落下させる事故を起こして、全国ニュースになりました。
 その明石駅の西隣の駅は西新町駅で、さらにその西隣が林崎松江海岸駅です。西新町は「にっしんまち」と発音することが多く、林崎も「はやっさき」と発音することが多い地名です。「にししんまち」や「はやしさき」の「し」(イ音)を促音便にしているのです。
 一方、JRの西明石駅(新幹線・在来線併設)は「にっしゃかし」と発音されることがあり、山陽本線の土山駅(明石市最西端の駅)は「つっちゃま」と発音されることがあります。土山駅前には「つっちゃまのパン屋」という看板を掲げた店もあります。
 「にっしゃかし」や「つっちゃま」というような発音は、関西では広く行われています。「ふくっちゃま」(福知山)、「いっしゃま」(石山)、「あっしゃ」(芦屋)などがあります。この発音には、もちろん一定の法則があります。
 ひとつの単語のうち、2拍目より後ろにイ段かウ段の音があり、その次に母音「ア・イ・ウ・エ・オ」や、ヤ行の「ヤ・ユ・ヨ」や、ワ行の「ワ」がくる場合に起こるのです。2拍の発音が結びついて「キャ・キュ・キョ」などの拗音の1拍となって、減った1拍を「ン」という撥音、または「ッ」という促音で補うことをしているのです。
 地名を話題にしましたが、普通の名詞でも同様です。日曜日を「にっちょーび」と言います。名詞に限りません。「はなび(花火)・を・ うっちゃげる。」というのは「打ち上げる」の発音が変化したものです。
 「明石日常生活語辞典」では、このような言葉も見出しにしています。その例を引用します。

●うっちゃがる【(打ち上がる)】《動詞・ラ行五段活用》 ①波によってものが海岸に運び上げられる。「たいふー(台風)・の・ あと(後)・に・は・ ごみ(塵)・が・ いっぱい・ うっちゃがっ・とる。」「かいがら(貝殻)・が・ うっちゃがる。」②打たれて空高く飛ぶ。「ろけっと(ロケット)・が・ うっちゃがっ・た。」■他動詞は「うっちゃげる【(打ち上げる)】」〔⇒うちあがる【打ち上がる】、うちゃがる【(打ち上がる)】〕
●うっちゃげ【(打っち上げ)】《名詞》 ①ものを空高く上げること。「じんこーえーせー(人工衛星)・の・ うっちゃげ・は・ あした(明日)・に・ の(延)び・た。」②ものごとを終わること。「きょー(今日)・は・ このへん・で・ うっちゃげ・に・ しよ・ー。」〔⇒うちあげ【打ち上げ】〕
●うっちゃげる【(打ち上げる)】《動詞・ガ行下一段活用》 ①波がものを海岸に運び上げる。「たか(高)い・ なみ(波)・が・ かいそー(海藻)・を・ いっぱい・ うっちゃげ・とる。」②打って空高く飛ばす。「はなび(花火)・を・ うっちゃげる。」■自動詞は「うっちゃがる【(打ち上がる)】」■名詞化=うっちゃげ【(打ち上げ)】〔⇒うちあげる【打ち上げる】、うちゃげる【(打ち上げる)】〕
●うっちゃわす【(打っち合わす)】《動詞・サ行五段活用》 ものごとの方針や手順や方向性などを、前もって相談する。「かいぎ(会議)・の・ すす(進)めかた・を・ うっちゃわし・とく。」〔⇒うちあわす【打ち合わす】、うちあわせる【打ち合わせる】、うっちゃわせる【(打っち合わせる)】〕
●うっちゃわせ【(打っち合わせ)】《名詞、動詞する》 ものごとの方針や手順や方向性などを、前もって相談すること。また、その話し合い。「あした(明日)・の・ しごと(仕事)・の・ うっちゃわせ・を・ す(済)ます。」〔⇒うちあわせ【打ち合わせ】〕
●うっちゃわせる【(打っち合わせる)】《動詞・サ行下一段活用》 ものごとの方針や手順や方向性などを、前もって相談する。「しごと(仕事)・の・ ぶんたん(分担)・を・ うっちゃわせる。」■名詞化=うっちゃわせ【(打っち合わせ)】〔⇒うちあわす【打ち合わす】、うちあわせる【打ち合わせる】、うっちゃわす【(打っち合わす)】〕

 私は「ゆきお(幸男)」という名前です。近所では、小さい頃から「ゆっきょちゃん」と呼ばれておりました。今でも、幼なじみが「ゆっきょちゃん」と呼んでくれると、嬉しくなります。

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2019年11月 7日 (木)

明石日常生活語辞典・追記(60)

なんやかや

 

 

 「なんやかや」という言葉は、漢字で書くと「何や彼や」であって、共通語と言って差し支えないでしょう。けれども、この言葉を載せていない国語辞典もあります。
 『明鏡国語辞典』には、《連語》として、「あれやこれや。いろいろ。」という意味が書かれています。「何・や・彼・や」の4語から成り立っていますから連語であることは確かです。
 元の言葉に忠実であるとすれば、例えば「てのひら(掌)」という語は、「手・の・平」という3語からできていますから、もともとは連語です。けれども今では「てのひら」は1語の名詞です。
同じように、言葉の働きの上から判断すれば、「なんやかや」を1語と判断して、副詞としても差し支えないだろうと思います。「明石日常生活語辞典」では、少し長い言葉でも、1語であると判断した言葉がたくさんあります。
 ところで、その「なんやかや」という言葉は、ちょっと違った言葉遣いになったり、発音が異なったりすることがあります。方言は話し言葉の世界のものですから、当然です。
 「明石日常生活語辞典」の「なんやかや」の項目を引用します。

 

 

●なんやかや【何や彼や】《副詞と》 一つのことに限らず、いろいろな事柄や内容にわたっている様子を表す言葉。さまざまなものが混じって存在していることを表す言葉。「これから・ なんやかや・ おせ(教)・てください・な。」「なんやかや・ わから・ん・ こと・が・ ぎょーさん(仰山)・ ある。」「なんやかやと・ しゅくだい(宿題)・を・ いっぱい(一杯)・ だ(出)さ・れ・た。」〔⇒なんやか【何やか】、なんやかい【何やかい】、なんやかし【何や彼し】、なんやらかやら【何やら彼やら】、なんやらかんやら【(何やら彼やら)】、なんたらかんたら【何たらかんたら】、なんちゃらかんちゃら【何ちゃらかんちゃら】、なんじゃらかんじゃら【(何じゃら彼じゃら)】、なんかかんか【(何か彼か)】〕

 

 末尾に、いろいろな言葉を並べています。同じような意味で使われる言葉です。共通語として使われている言葉もあるでしょうし、方言(俚言)特有の言葉もあるでしょう。どちらに入れるべきか、微妙な言葉もあるでしょう。その「微妙な」ということこそ、方言の世界の特徴です。
 話し言葉の世界を中心にして拾い上げた国語辞典には載せられていない言葉もあるでしょう。「明石日常生活語辞典」は話し言葉の辞典ですから、言葉遣いがちょっと変わったり、発音が変化したりしている言葉も、記録するように努めました。もっと違った形で使われている言葉もあるかもしれません。
 末尾に並べた言葉は、すべて見出し語としていますから、それぞれの項目を開いてみていただけば、それぞれの言葉の用例も並べています。

 

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2019年11月 6日 (水)

明石日常生活語辞典・追記(59)

じゅうにんがつ


 「二」という漢字は、音読では「に」と読み、訓読では「ふた(つ)」と読みます。けれども、NHKのニュースなどでは、例えば「2.4」という数字を、「に・てん・よん」ではなく「にい・てん・よん」と読んでいるように聞こえます。「に・てん・よん」よりも「にい・てん・よん」の方が、聞いている人に伝わりやすいと考えるからでしょう。
 共通語では長音ではないのに、方言では長音となるということの代表的な例は、関西方言の1音の言葉の長音化でしょう。「ごみ(塵)・が・ め(目)ー・に・ はい(入)っ・た。」とか、「おも(重)たい・ もん(物)・を・ も(持)っ・て・ て(手)ー・が・ しび(痺)れ・た。」などと言います。「二」を「にい」と言うのも、これと同じです。
 ところで、「二」を「にー」ではなくて、別の発音で2音節にすることが、私の地域では行われています。
 「一月、二月、三月、四月…」を、「いちがつ、にんがつ、さんがつ、しんがつ…」とも言うのです。「がつ」の前の発音を2音節に揃えようという意識がはたらいているのでしょうが、「にーがつ」や「しーがつ」では間延びした感じになりますから、撥音を使っているのでしょう。「五月」は「ごんがつ」と言わないわけではありませんが、「ごーがつ」となることの方が多いように思われます。「九月」も「くーがつ」です。ところが、「十二月」は「二月」に引かれて、「じゅーにんがつ」となります。
 「明石日常生活語辞典」の「じゅうにんがつ」の項目を引用しておきます。


●じゅうにんがつ〔じゅーにんがつ〕【十二ん月】《名詞》 1年の12か月のうちの最後の月。「あっと・ ゆ(言)ー・ ま(間)・に・ じゅーにんがつ・に・ なっ・てまい・まし・た・な。」◆「に【二】」という一音節語を延ばして発音するときに、「じゅーにーがつ」でなく、「じゅーにんがつ」となることがある。「にがつ【二月】」も「にんがつ」と言うことがある。〔⇒じゅうにがつ【十二月】〕

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